神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
俺は、アーリヤット皇国との決闘の際に会った、ナツキ様のことを思い出した。

ルディシアをけしかけてきたり、マシュリを利用したり。

フユリ様への敵対心を燃やし、事あるごとにルーデュニア聖王国にちょっかいを出し。

ろくな奴じゃない、いけ好かない奴だ、とずっと思ってたけど。

それでもフユリ様にとっては、実の兄だった。

それに、魔導師を嫌ってはいたものの。

元々はルーデュニア人でありながら、アーリヤット皇国で皇王として、立派に大国まとめ上げていた。

フユリ様への嫉妬心を除けば、多分、そんなに悪い人じゃなかったのだろう。

…それなのに…。

「…悲しんでなどいられません。今、本当に辛いのは…大変な思いをしているのは…アーリヤット国民なのですから」

一方的に毛嫌いされていたとはいえ、フユリ様は実の兄を失った。

人目を憚らずに悲しみ、我を失ってもおかしくないというのに。

フユリ様は、気丈にもそう言ってみせた。

「それに…アーリヤット皇国を平定した後は、今度は我が国に矛先を向けてくる可能性もあります」

「…」

「新しいアーリヤット皇国が…イシュメル女王が次に、どのような手を打ってきても、対処出来るようにしておかなくては…」

「…そう、ですね」

悲しんでいる暇などない。

次に戦争の火の粉が降りかかるのは、このルーデュニア聖王国かもしれないのだから。

フユリ様は自分にそう言い聞かせ、必死に平静を装っているのだろう。

その健気な、気丈な姿に。

俺達としても、何とか彼女を支えてあげたい、と思った。

それに…フユリ様の言う通り。

アーリヤット皇国を制圧した後は、今度はルーデュニア聖王国を狙ってくるかもしれないのだ。

常に、目を光らせておかなくては。

「…ひいては、シルナ学院長。折り入って、お願いしたいことがあります」

フユリ様は姿勢を正し、膝の上で両手を握り。

シルナに、そう頼んできた。

「お願いしたいこと…ですか?何でしょう?」

「それは…」

フユリ様の「お願い」に。

俺もシルナも、目を丸くして驚いた。
< 63 / 328 >

この作品をシェア

pagetop