神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
「な、ナジュ君っ…?どうして…」

慌てる天音。

「どうしてって、こんな時こそ、僕の読心魔法が生きる時じゃないですか。イシュメル女王のどす黒い腹のうちを、一瞬で暴いて…」

「そんな…!危ないよ、ナジュ君」

「大丈夫、大丈夫。危ない目に遭ったとしても、僕は不死身で…」

「そういうことを言ってるんじゃないって、いつも言ってるでしょっ…!」

珍しく、天音は声を荒らげた。

まったくだ。

もっと言ってやってくれ、天音。

でなきゃこいつは、平気で自分を犠牲にする悪癖が治らない。

「悪癖って…。人をドMみたいに言わないでくださいよ。別に僕は好き好んで犠牲になってる訳じゃ…」

うるせぇ。

「ナジュ君がキルディリア魔王国に行くなら、僕が一緒に行く」

天音は、珍しく強い口調で断言した。

「気持ちは嬉しいですけど、天音さんはポーカーフェイスが大の苦手じゃないですか。スパイなんて務まります?」

「うぐっ…。ぐっ…そ、それは…」

良くも悪くも素直だからな。天音は。

丁度ナジュとは正反対。

「でも…僕は嫌だよ。ナジュ君を一人で行かせるなんて…。…ついこの間だって、ナジュ君がジャマ王国に行っちゃって…ずっと、凄く悲しい思いをしてたのに…」

「…天音さん…」

「お願いだから。もう、一人で危険を背負おうとしないで」

切実な訴えである。

すると、シルナが。

「…えーっと。現実問題として、ナジュ君がスパイになるのはちょっと、難しいと思う」

言いにくそうに、そっと反対案を口にした。

「ほう…?僕のスパイ力を疑ってますか?正体と素性を隠して、イーニシュフェルト魔導学院にも潜入した僕を?」

「あの時は、まったく迷惑なことをしてくれましたね」

当時のことを思い出し、再び怒りを募らせているイレースである。

俺の中では、あれは非常に苦い記憶として残ってるよ。

「そ、そうじゃなくて…。ナジュ君が優れた読心魔法の使い手だってことは、多分イシュメル女王にもバレてるだろうから」

「あー…。…成程」

…うん、俺もそう思う。

「イシュメル女王は、俺とシュニィのことも知っていた。ナジュのことを知っていてもおかしくはないな」

と、無闇。

だろうな。

シュニィと無闇を知っているなら、当然ナジュのことも調べているだろう。

特に、読心魔法なんて稀有な魔法は、当然イシュメル女王も警戒しているだろうから。

ナジュがキルディリアに潜入したとしても、イシュメル女王は心を許さないはずだ。

「ふむ…。成程、それじゃあ僕は活躍出来そうにありませんね」

「あぁ。気持ちだけ受け取っとくよ」

「…はー」

…何で残念そうなんだよ。

一方天音は、ナジュがスパイ候補から外れたことで、露骨にホッとしているようだった。

そして、次に名乗りをあげたのは。

「じゃ、スパイは俺達だねー」

「潜入に必要なものを用意してくるね」

すぐりと令月は、当たり前のようにそう言って、部屋を出ていこうとした。

ちょっと待て。

「お前ら!勝手に出ていこうとするんじゃない。止まれ!」

「え、なんで?」

「大丈夫だよ。本職は暗殺者だけど、潜入任務なら得意分野だから」

ふざけんな。お前らの本分は学生だ。

潜入しなくて良いから。真面目に学生やってろ。

「お前らは駄目に決まってるだろ!学院で大人しくしとけ」

そう言うと、二人共心底驚いたように目を見開いた。

「…そんな不思議そうな顔をするなよ」

「なんで?この中で一番スパイに向いてるの、どう考えても俺達だよ?」

…その一点に関しては、確かに反論のしようがないが。

でも、お前達に危険な潜入任務を任せる訳にはいかないんだ。
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