神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
現在、俺達がいるのは船の中。

キルディリア魔王国に向かう、旅客船の船室の一室である。

乗船して、まもなく出港して。

いよいよ旅が始まったな、と気を引き締めていた、矢先。

ルイーシュは、早速持参したカップ麺にお湯を入れて、食べようとしていた。

「お前って奴は…。もっとこう、緊張感とかないのかよ?」

「ありませんね。緊張なんて、してもしなくても結果は大して変わらないんですから。するだけ無駄です」

そりゃまぁ…。…そうかもしれないけど。

「大体、緊張感の無さで言えば、キュレムさんも俺と似たようなものじゃないですか」

「あぁ?」

「忘れたとは言わせませんよ。学生時代、1年の締めくくりの三学期の期末試験の時、クラスメイトみんなが『緊張する〜っ』って言ってたのに、一人開き直って、鉛筆コロコロの練習してたじゃないですか」

「あぁ…。そんなこともあったな…」

思い出させんなよ。

だってしょうがないだろ。試験前だぞ?

今更慌てたってどうしようもない。

だったら、せめて鉛筆コロコロの精度を上げて、運で勝負する他ない。

俺の鉛筆コロコロは優秀だぞ。10問に1問くらいは当たるからな。ドヤ。

はぁ。

「まぁ…。ルイーシュに緊張感なんか求めた俺が悪かったよ」

「そういうことです」

「…まだ出航したばっかなのに、もう食うのかよ?」

せめてもう少し…。後で食べたらどうだ?

遠足のバスに乗り込んで、すぐおやつを取り出す小学生かな?

「だって、飲食出来るのは今のうちでしょう?」

「え?」

「ジュリスさんやシュニィさんの話によると、キルディリア魔王国が近づくと、酷く船が揺れるそうじゃないですか。きっと食欲なんかなくなりますよ」

「あー…」

成程、言ってたな。そんなこと。

「だったら、飲食するなら今のうちです」

「言われてみれば…」

…そうなのか?

まぁ、そういうことにしておくか…。

どっちみち、キルディリア魔王国に着いたら。

多分、ルーデュニア産のカップ麺なんて、滅多に食べられないだろうし。

スパイ任務がいつまで続くかは分からないが、しばらくはルーデュニア聖王国には帰れないだろうし。

今のうちに、故郷の味(?)を楽しんでおくのも悪くない。

「よしっ、そろそろですね…」

5分測り終えたルイーシュが、べりべり、とカップ麺の蓋を剥がした。

途端に、船室の中に、もわっ、とカップ麺の匂いが充満した。

うへぁ。

「何?この匂い…」

どっかで嗅いだことがあるような…。

「え?カレー味噌バターチーズラーメンですが」

「何だよ、その情報量過多な味は…」

どれか一つに、せめてどれか二つまでに絞ったらどうだ?

カレー味なのか味噌味なのか、バターなのかチーズなのか、はっきりしろ。

「キュレムさんの分もありますよ」

マジかよ。

「期間限定商品なんですよ。きっと美味しいですよ。さぁ」

「う、うん…」

「しっかり噛み締めておきましょうね。これが故郷の味です」

「故郷の味ではないだろ…」

どうなってんの、俺の故郷。
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