豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
 当時、俺にとって美沙江だけが全てだった。歳の離れた幼馴染、物心ついた時からいつも一緒にいた彼女だけが特別だった。
 面倒見の良い、優しい姉のような存在。そんな美沙江との関係が変わったのは、彼女が大学生になった時だった。まだ、中学生だった俺に離れていく彼女を引き留める術などなく別れを意識した時、自分の恋心に気づいた。
 あれから数年、何度振られようと追いすがり、高校入学と同時に、やっと長年の想いが実った。しかし、幸せは長くは続かず、その数年後、突然の別れが俺を襲った。
 知らない男の手を取り、去って行く彼女を見つめ、引きとめることも、その男から美沙江を奪うことも出来ない。自分の不甲斐なさに憤り、やり場のない怒りはいつしか、美沙江を恨み、女という生き物を恨むまでに成長していた。
 しかし、そんな感情はいつの間にか消え去り、気づいた時には心の中の美沙江という存在が小さくなっていた。鈴香との出会いがなければ、今でも美沙江を恨んでいたことだろう。
 意地っ張りで、不器用な鈴香。バリバリ仕事をこなす癖に、変な所で抜けている七つ歳上の彼女を思い出すだけで心が震える。
 恋には疎くて、男女の機微には鈍感なくせに、男慣れした年上女の振りをする。深く付き合えば付き合う程、鈴香が纏った仮面をぶち壊し、本当の姿が見たくなる。あの仮面の下に隠された弱い彼女が見たくなる。
 俺の前でだけは、ありのままの姿を見せて欲しいと叫ぶエゴのまま、だいぶ苛めてしまった自覚はある。
 鈴香との最後の夜を思い出し胸がズキリと痛む。
 もう、嫌われてしまったのかもしれない。鈴香が言うように、始めから俺に対する好意などなかったのかもしれない。しかし、鈴香の本心がどうであれ、もうあきらめない。格好悪くたって、徹底的に追いすがり、手に入れると決めた。

――――、鈴香……

 彼女のことを想うだけで、こんなにも心がふるえる。だからこそ、目の前の女だけは排除しておかなければならない。
 くくく、こんな形で日の目をみることになるなんてな。
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