豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「鈴香さんに彼氏がいない? おかしいですね。俺、彼女と最近まで同棲していましたが。何処ぞのストーカーに帰宅途中で襲われそうになった彼女を一時避難する目的でね」
「おっ、お前! あの時の……」
「思い出して頂けましたか? ストーカーさん。あの時から、すでに鈴香さんとは恋仲です」
「いや……今は、一人で暮らしているはず」
「あぁ、貴方は知らないと思いますが、俺と鈴香さんは同僚でしてね。彼女の希望で、付き合っている事は社内で秘密にしていたんです。だから、同棲していたのも、一時的な避難のつもりだったのか、ストーカーさんの影が消えた途端、さっさと自分の家に帰っちゃったんですよ。俺は、あのまま本格的に同棲に持ち込みたかったんですけどね。それに、貴方があのまま諦めるとも思えなかったし、案の定、こんな事態になっている。彼女は一人でどうにかしようと考えていたようですが……」
奴を見据え淡々と話をしていた橘の視線が一瞬逸れ、私を捉える。その強く鋭い視線にさらされ、ドキリと心臓が鳴る。猛禽類に睨まれた獲物の如く、息をすることすら忘れていた。
あぁぁ、あの時からずっと彼の強い視線に魅せられ、囚われていた。あの悲しみに満ちた瞳が私を写す度、確かな喜びを感じていた。
悲しみに沈んだ瞳に宿る怒りが喜びに変わり、徐々に光を宿していく。そんな様を見るのが好きだった。あの強い光を宿した瞳にもう一度、私を写して欲しい。
湧き上がる欲求を裏切るように、フッと外された視線に、胸がズキリと痛む。
本当、嫌になる……
こんなにも恋焦がれているのに別れを選んだ私は、大馬鹿者だ。
「ところで、何やら色々と鈴香さんを脅してくれたようですが、人の彼女を脅迫したんですから、それ相応の覚悟は出来ているってことですよね?」
「お、脅す!? はっ? そんな事してねぇよ」
隣から聴こえる上擦った声に、奴もまた橘に気圧《けお》されているとわかる。それほどまでに、橘から発せられる威圧は、周囲を圧倒していた。
いつの間にか静まりかえった店内に、ゆったりとしたジャズだけが響く。緊張感に包まれた店内で唯一の救いは、この場所が他の客からは見えない死角となっていることだ。そうでなければ、興味津々な他の客達の視線にさらされていたことだろう。
「おっ、お前! あの時の……」
「思い出して頂けましたか? ストーカーさん。あの時から、すでに鈴香さんとは恋仲です」
「いや……今は、一人で暮らしているはず」
「あぁ、貴方は知らないと思いますが、俺と鈴香さんは同僚でしてね。彼女の希望で、付き合っている事は社内で秘密にしていたんです。だから、同棲していたのも、一時的な避難のつもりだったのか、ストーカーさんの影が消えた途端、さっさと自分の家に帰っちゃったんですよ。俺は、あのまま本格的に同棲に持ち込みたかったんですけどね。それに、貴方があのまま諦めるとも思えなかったし、案の定、こんな事態になっている。彼女は一人でどうにかしようと考えていたようですが……」
奴を見据え淡々と話をしていた橘の視線が一瞬逸れ、私を捉える。その強く鋭い視線にさらされ、ドキリと心臓が鳴る。猛禽類に睨まれた獲物の如く、息をすることすら忘れていた。
あぁぁ、あの時からずっと彼の強い視線に魅せられ、囚われていた。あの悲しみに満ちた瞳が私を写す度、確かな喜びを感じていた。
悲しみに沈んだ瞳に宿る怒りが喜びに変わり、徐々に光を宿していく。そんな様を見るのが好きだった。あの強い光を宿した瞳にもう一度、私を写して欲しい。
湧き上がる欲求を裏切るように、フッと外された視線に、胸がズキリと痛む。
本当、嫌になる……
こんなにも恋焦がれているのに別れを選んだ私は、大馬鹿者だ。
「ところで、何やら色々と鈴香さんを脅してくれたようですが、人の彼女を脅迫したんですから、それ相応の覚悟は出来ているってことですよね?」
「お、脅す!? はっ? そんな事してねぇよ」
隣から聴こえる上擦った声に、奴もまた橘に気圧《けお》されているとわかる。それほどまでに、橘から発せられる威圧は、周囲を圧倒していた。
いつの間にか静まりかえった店内に、ゆったりとしたジャズだけが響く。緊張感に包まれた店内で唯一の救いは、この場所が他の客からは見えない死角となっていることだ。そうでなければ、興味津々な他の客達の視線にさらされていたことだろう。