豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「あの夜、来てたんだね。熱が高くて意識も朦朧としていたからはっきり覚えていないの」
「そうですか……」
「……でもね、貴方に言った別れの言葉は本心じゃなかった。馬鹿よね。騙されて、脅されて、弄ばれて、それでも嫌いになれないなんてね。いつの間にか、貴方の存在が大きくなっていた」
そう……、あんなに執着していた元彼の存在を忘れるほどに、橘真紘という存在が私の心に与えた影響は大きかった。
意地悪で、自分勝手で、クズな男。だけど根は優しくて、面倒見がよくて、私よりよっぽど大人な人。彼を知れば知るほど惹かれていった。
だからこそ怖かった。このまま橘に溺れてしまえば、彼との関係が壊れてしまった時、私はもう立ち直れない。だから、彼を嫌いになる理由を並べ恋心を封印した。
「これ以上傷つくのが怖かった。貴方に惹かれていく心を律する事も出来ない自分が怖かった。だから、言い訳ばかり積み重ねて自分の心を誤魔化していた。離れてから後悔しても遅いのにね。あの夜、酷い言葉をぶつけて本当にごめんなさい。今さら謝ったところで、もう遅いのも分かっている。でも、最後の足掻きはさせて欲しいの」
あふれ出した涙が、頬を伝い流れていく。
きっと酷い顔をしている。滲んでぼやけた視界では橘の表情すらわからない。でも、もう下は向かない。最後くらい彼を見つめて言いたい。
「もう自分の心に嘘はつかない。好きなの……、橘真紘、貴方を愛している」
唇に感じた狂おしいほどの熱が、全身を震わせる。
あぁぁ、コレが欲しかった。
「鈴香、愛しているって言葉は本心なんだね」
「えぇ……」
上手く笑えただろうか?
橘との関係は、これが最後かもしれない。ただ、どんな結果になろうとも笑って別れようと決めた。最後くらい、笑顔の私を残したい。
「そっか……、長かったなぁ。やっと手に入れた。やっと俺の気持ちが通じた。ずっと、俺のことを信じていなかっただろ? まぁ、出会い方がアレじゃ、信じろって言う方が無理かもしれないけど、正直しんどかった。今だって、心のどこかで別れを意識していそうだし」
「――えっ!?」
「だって、そうだろう。そんな笑い方するなんて、自分だけスッキリして去ろうとしている笑い方だもんなぁ。ただ、そう簡単には手放さないけど」
「いや、あの……」
「しかも、美沙江に仕掛けられて、思惑通り別れを切り出すなんて、本当どうしてやろうかと思った。まぁ、鈴香じゃ彼女を上手くかわすことなんて無理だっただろうけどね。あの人、俺並みに策士だから」
『美沙江』の言葉に心臓が大きく跳ねる。
結局、彼女とはどうなったのだろうか?
今の橘の話ぶりからは、吉瀬さんとヨリを戻したようには感じられない。
彼女との顛末を聞いてもいいのだろうか?
踏み込んでいいものか悩み過ぎて眉間にシワが寄っていたのか、意地悪な笑みを浮かべた橘にツンツンと眉間を突かれる。
「どうせ気になっているんだろ。吉瀬美沙江との関係が」
「えぇ、まぁ。だって、吉瀬さんは真紘の元彼女だし……」
……想い人でしょ。
最後の言葉だけは、口に出すことが出来なかった。俯いてしまった私の頭にのせられた優しい手に思わず顔をあげれば、満面の笑みを浮かべた橘の顔に驚く。その幸せそうな笑顔に心臓が早鐘を打ち鳴らす。
「嫉妬してくれたんだ。あんな女でも役に立つんだな。嬉しいよ、鈴香」
かすめ取るように唇を奪われ、時が止まる。
「あの女って……、でも忘れられない人って聞いたわ」
「本当、鈴香って流されやすいっていうか、騙されやすいっていうか、どうせ近藤先輩あたりに吹き込まれたんだろうけど」
「えっ? なんで知って……」
ジト目で睨まれ、なぜ責められるのか理由がわからず困惑する。
「そうですか……」
「……でもね、貴方に言った別れの言葉は本心じゃなかった。馬鹿よね。騙されて、脅されて、弄ばれて、それでも嫌いになれないなんてね。いつの間にか、貴方の存在が大きくなっていた」
そう……、あんなに執着していた元彼の存在を忘れるほどに、橘真紘という存在が私の心に与えた影響は大きかった。
意地悪で、自分勝手で、クズな男。だけど根は優しくて、面倒見がよくて、私よりよっぽど大人な人。彼を知れば知るほど惹かれていった。
だからこそ怖かった。このまま橘に溺れてしまえば、彼との関係が壊れてしまった時、私はもう立ち直れない。だから、彼を嫌いになる理由を並べ恋心を封印した。
「これ以上傷つくのが怖かった。貴方に惹かれていく心を律する事も出来ない自分が怖かった。だから、言い訳ばかり積み重ねて自分の心を誤魔化していた。離れてから後悔しても遅いのにね。あの夜、酷い言葉をぶつけて本当にごめんなさい。今さら謝ったところで、もう遅いのも分かっている。でも、最後の足掻きはさせて欲しいの」
あふれ出した涙が、頬を伝い流れていく。
きっと酷い顔をしている。滲んでぼやけた視界では橘の表情すらわからない。でも、もう下は向かない。最後くらい彼を見つめて言いたい。
「もう自分の心に嘘はつかない。好きなの……、橘真紘、貴方を愛している」
唇に感じた狂おしいほどの熱が、全身を震わせる。
あぁぁ、コレが欲しかった。
「鈴香、愛しているって言葉は本心なんだね」
「えぇ……」
上手く笑えただろうか?
橘との関係は、これが最後かもしれない。ただ、どんな結果になろうとも笑って別れようと決めた。最後くらい、笑顔の私を残したい。
「そっか……、長かったなぁ。やっと手に入れた。やっと俺の気持ちが通じた。ずっと、俺のことを信じていなかっただろ? まぁ、出会い方がアレじゃ、信じろって言う方が無理かもしれないけど、正直しんどかった。今だって、心のどこかで別れを意識していそうだし」
「――えっ!?」
「だって、そうだろう。そんな笑い方するなんて、自分だけスッキリして去ろうとしている笑い方だもんなぁ。ただ、そう簡単には手放さないけど」
「いや、あの……」
「しかも、美沙江に仕掛けられて、思惑通り別れを切り出すなんて、本当どうしてやろうかと思った。まぁ、鈴香じゃ彼女を上手くかわすことなんて無理だっただろうけどね。あの人、俺並みに策士だから」
『美沙江』の言葉に心臓が大きく跳ねる。
結局、彼女とはどうなったのだろうか?
今の橘の話ぶりからは、吉瀬さんとヨリを戻したようには感じられない。
彼女との顛末を聞いてもいいのだろうか?
踏み込んでいいものか悩み過ぎて眉間にシワが寄っていたのか、意地悪な笑みを浮かべた橘にツンツンと眉間を突かれる。
「どうせ気になっているんだろ。吉瀬美沙江との関係が」
「えぇ、まぁ。だって、吉瀬さんは真紘の元彼女だし……」
……想い人でしょ。
最後の言葉だけは、口に出すことが出来なかった。俯いてしまった私の頭にのせられた優しい手に思わず顔をあげれば、満面の笑みを浮かべた橘の顔に驚く。その幸せそうな笑顔に心臓が早鐘を打ち鳴らす。
「嫉妬してくれたんだ。あんな女でも役に立つんだな。嬉しいよ、鈴香」
かすめ取るように唇を奪われ、時が止まる。
「あの女って……、でも忘れられない人って聞いたわ」
「本当、鈴香って流されやすいっていうか、騙されやすいっていうか、どうせ近藤先輩あたりに吹き込まれたんだろうけど」
「えっ? なんで知って……」
ジト目で睨まれ、なぜ責められるのか理由がわからず困惑する。