豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網

偽りの心

 彼からの返事を待つ事はしなかった。
 両手で肩を押さえ、深いキスを仕掛ける。驚きで、わずかに開いた唇を割り舌先を侵入させれば含み切れなかった唾液が彼の顎を濡らした。
 全く反応を示さない彼に焦れ自ら舌を絡めるものの、一向に何も返してくれない。空虚な瞳に心の奥底がズキンっと痛んだ。

優しくたって、好きでもない女とのキスに応えるはずがない。そんなのわかっている。でも、もう止まれない。

「ねぇ。貴方は悔しくないの? 童貞だと捨てられ、遊び慣れた男に大切な彼女を奪われた。今頃二人は何をしているのかしらね? クリスマスイブだもの。捨てた貴方の事なんて忘れて、愛し合っているのかもしれないわね。いいえ、偽りの愛を交わし合っているのかしら? だって、彼女の相手は遊び慣れた男よ。女を騙すのなんてお手のモノよね。そんなクズ男に大切な彼女を奪われたのに、貴方は指を咥えて見ているだけ。そんな弱腰だから彼女にも捨てられたのではなくって?」
「お姉さんだって、浮気相手の女に彼氏を奪われるのを指くわえて見てただけじゃないか」
「確かにその通りね。浮気相手の若い女に彼氏を奪われても、おばさんと馬鹿にされても何も言い返せなかった。馬鹿みたいよね。散々裏切られて来たのに、最後まで彼を信じようとしてたなんてね。本当馬鹿な女よ。私の恋はもう終わったの。今さら彼に縋りついたところで何も変わらない。上手く行ったところで、浮気相手が別の女に変わるだけ。でも、貴方は違うわ。まだ若い。自分に自信をつけて次に進む事だって出来るし、別れた彼女を取り戻す事だって出来る。貴方には未来がある」

 私は酷い女だ。
 彼の劣等感を煽り、思い通りに事を進めようとしている。彼氏に裏切られた悲しみを素直で一途な彼で埋めようとしている。彼と体を重ねたとしても、ぽっかり空いた心の穴を埋めるなんて出来ないと分かっている。でも、もう止まれない。少しでも惨めなこの状況を忘れられるのなら、彼の劣等感を煽り利用することも厭わない。
< 13 / 109 >

この作品をシェア

pagetop