豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「ちょっ! わ、わたし昨日の服のままだし、お風呂も入ってないし、汗もいっぱいかいて汚いし、離して」

「黙って……」

 焦りながら言った言葉に、被せるように言われた言葉に心臓が高鳴る。決して怒鳴られた訳ではないのに、いつになく真剣味を帯びた声に、それ以上言葉を続ける事が出来なかった。
 沈黙が落ちる。
 抱き締める腕の力が強まり、彼の匂いに包まれ時間だけが過ぎていく。

「鈴香……、お願いだから、逃げずに聞いて欲しい」

 ひとつ震えるため息を吐き出し、橘が話し出す。

「覚えているか分からないけど、昨日鈴香に言ったことは全て本心なんだ。最初は、自尊心を満たすためだけに脅して、思い通りに出来ればそれで良かった。でも、それじゃ満たされなかった。あの日、クリスマスイブの日……、鈴香の心に俺はいなかった。慣れないくせに俺を押し倒してまでsexしようとしたのは、元彼への想いからだよな?」

 橘の言葉を否定することが出来ない。
 あの日、クリスマスイブの日。確かに、私は橘に元彼の存在を重ねていた。
 あれはただの当てつけだ。主導権を握り、翻弄することで元彼に対する恨みを晴らそうとしていたのかもしれない。
 ひどい女だと思う。橘に思惑があったにしろ、何も知らない彼を利用したのは事実だった。

「最後まで俺を通して元彼を見ていた鈴香に腹を立てた。俺は元彼の代わりでしかなかった。だから、脅してでも鈴香の心に俺を刻みつけたかった。ただ、こんなに深入りするつもりはなかったんだ。鈴香を知れば知るほど深みにハマっていった。俺の脅しに最後まで屈しなかったよな。優位に立ったようで、最後には鈴香に負ける。その勝ち気な性格と一本筋の通った考えや振る舞いに惹かれたのかもしれない。窮地に立たされても媚びずに立ち向かう気概に惚れたのかもしれない」

 そんな事を思ってくれていたなんて知らなかった。橘にとって私は、程のいいおもちゃに過ぎないのだと、ずっと思っていた。
 思いがけない告白に、心がフワフワとして落ち着かない。ただ、頭の中で冷静になれと、叫ぶ声がする。
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