豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「あの様子だと、諦める気はないと思うぞ。会社も家も奴に知られているんだよな?」
「えぇ……」
「しばらく誰かの家に身を寄せるとか出来ないのか? 実家とか親戚とか友達とか」
「無理ね。実家は遠いし、友達のところも長くは無理でしょ。今後、引っ越しを考えるにしても直ぐには出来ないし、ホテル住まいって訳にもね。しばらく、行き帰りは気をつけるから大丈夫よ」

 元彼の今後の出方が分からないだけに怖いが仕方ない。出来るだけ人通りの少ない道を避けて、夜遅くなる時はタクシーで帰るしかないか。

「……じゃあ、俺の家に来ないか?」
「はっ?? 橘君の家? あり得ないでしょう!! 貴方が私に何したか忘れたの!?」
「いや、ちゃんと覚えている。下心がないとは言わない。チャンスだとも思っている。恋人契約を解消した日、最後に言った事は覚えている? 鈴香が俺を嫌っているのも理解している。でも、好きなんだ。今でも愛している。だから、最後にチャンスが欲しい。鈴香、俺に挽回するチャンスをくれないか?」
「無理よ。貴方の家で暮らすなんて」
「元彼の様子じゃ、絶対にまた待ち伏せされる。家を知られている時点で、襲われる危険は高い。俺の家なら奴には知られていないし、万が一知られても男と一緒に暮らしていると分かれば諦めるかもしれない。絶対に鈴香の嫌がることはしない。だから、俺のところに来い」

 わずかに開いていた距離が一気に縮まり、彼の腕の中へと捕われる。耳から伝わる彼の心音と自分の心臓の拍動が重なり、眩暈《めまい》にも似た高揚感に支配されてしまう。

「絶対に守るから……」

 争《あらが》う術は残っていなかった。
 元彼とのやり取りで疲弊していた脳は考える事を放棄し、彼の言うがままに従ってしまう。耳元でささやかれる言葉に、ただ頷いていた。
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