豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「キスマーク……、俺のモノっていう印。たくさん付けたら他の男に取られる心配もなくなるかな? 鈴香気づいてないでしょ。狙ってる男が社内に沢山いるの」
「えっ!? そんな男いない……。下僕がいるとかいないとか言っているのも、揶揄い目的のただの噂でしょ」
「ほら。分かってない。下僕志願者がいるのも事実だけど、鈴香がフリーだと知って動き出した奴らもいる。鈍感にも程があるだろ」
「そんな事ないわよ」
「俺が牽制してなければ今頃喰われてるわ」
「まさかぁ……」

 橘の言葉が、にわかには信じがたい。
 元彼に何度も浮気されるような女だ。容姿が特別良いわけでもなければ、男受けする可愛らしい性格をしているわけでもない。仕事に関しては、上司部下、男女問わず間違った事をしていれば指摘するし、それに反感を覚える者も沢山いるだろう。性格もどちらかというと男勝りで勝ち気。
 こんな女の何処に惚れる要素があるのだろうか?
 だからこそ、元彼の前では出来るだけ可愛い女の振りをしていたと思う。聞き分けが良く、従順な女の振りを。その結果、浮気され捨てられたのだから、元彼と付き合っていた十年の努力は全て無意味な悪あがきだった。

「本当、そろそろ自覚してくれ。自分がどれだけ男の欲を煽る存在かって事を。男顔負けの豪胆さと信頼に足りうる仕事振りで社内でも一目置かれる存在なのに、たまに見せるオトボケ感。アンタのそういう無防備なところに男の欲が刺激されるんだよ。高嶺の花のアンタでも手に入るんじゃないかってね。二人の時は別の顔があるかもって、想像するだけでヨダレが出るわなぁ。暗がりに一人で行くとかやめてくれよ」

 以前に明日香からも同じ事を言われた覚えはある。でも、橘からも言われる羽目になろうとは思ってもみなかった。

「……はは…はいぃ……」
「さて、まだ分かって無さそうな鈴香ちゃんは信用出来ないので、やっぱり身体中にキスマーク付けておこうね」
「へっ…えっ…ひぃぁぁぁ……」

 首筋に落とされた唇が強く皮膚を吸い上げ、痛みと共に与えられた赤い鬱血痕にさらに歯を立てられる。強い痛みが脳髄へと伝わり、生理的な涙が溢れて頬を伝っていく。

「泣かせちゃったね……」

 優しいキスの雨が頬を流れる涙を吸い取っていく。

「鈴香、ごめん。先に謝っておく。もっと泣かせると思うから」

 耳元で囁かれた言葉に全身が戦慄く。
 鈴香を俺でいっぱいにしたい……
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