豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「須藤課長……、年を重ねれば重ねるほど臆病になっていくのはどうしてだと思いますか? 若い頃は一歩を踏み出すのに勇気なんて必要なかったのに、今じゃその場に立ち竦んで身動きが取れない。その一歩を踏み出さなければ後悔すると分かっているのに、足枷で繋がれているみたいに動けないんです。どうしてだと思いますか?」
「あまりに抽象的過ぎて答えにつまるな。ただ、年を重ねれば重ねるほど柵《しがらみ》が増えていくからじゃないかな。仕事を持てばプライベートでの行動が仕事に影響を与える事もあるし、家庭を持てば守らなければならない人達が出来る。年を重ねる度に広がっていく人間関係こそが柵そのものじゃないかな。世間体もあるし、身近な人達の事を考えれば自分勝手な行動は取れなくなる。確かに、若い頃に比べれば思い切った行動は出来なくなったかな」
「そうですね。やはり、世間体というか周りの目は気になります。三十路過ぎれば、世間一般的にはおばさんの範疇に入りますし、下手な行動は出来ないと言いますか……」
「確かにね。社会的な目は気になり出す頃だよな。会社でも中間管理職だし、上司と部下の間に挟まれ下手な事は出来ない。ストレス発散するにも若い頃のような無茶は出来ないだろ。家庭を持てばなおさらか。奥さんの目って言うのもあるしな」
「あら? そう言えば課長って……、独身ですよね。結婚願望ってないんですか?」

 同期の須藤課長とは長い付き合いだが、今まで浮いた話を聞いたことがなかった。いつも、彼氏との愚痴を聞いてもらうばかりで彼の恋愛事情を聞いたことがなかったと今さら気づき焦る。
 本当、私ってはた迷惑な同期じゃない。
 須藤課長への罪悪感から早口で言い募った。

「ほらっ、課長だって良い年ですし、恋人の一人や二人いるんじゃないですか?」
「おい、冬野さぁ……、恋人がいたら、お得意さまだろうと田ノ上部長のお嬢さんとの縁談話なんか、さっさと断っているわ」

 そう言えば、そんな縁談話があったことを思い出し、苦笑いを浮かべる。順調に提携話は進んでいるが、本契約が済むまでは気を抜けない。難しい立場に追い込まれている須藤課長に心の中で手を合わせる。

「須藤課長って、意外に義理堅いというか、一途なんですね。仕事より、恋人を取るとは……」
「お前なぁ、一途って……、まぁ俺も長年片想いしているしな」
「えっ!? 片想いしているんですか!?」

 いきなりの爆弾発言にほろ酔い気分も相まってテンションが上がる。
 須藤課長が片想いって、どんな娘だろう?
 次々と脳裏を候補となりそうな女性の顔が浮かびワクワクしてしまう。

「どの娘ですか!? 社内なら、私、仲を取りもちますよ!」
「じゃあ、お願いしよっかな……」

 ギュッと掴まれた手をひかれ、気づいた時には須藤課長の腕の中だった。
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