大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
 美空はベッドの上で膝を抱える。
 予報では昨日のうちに止むはずだったのに、朝の九時を過ぎてもまだ雨が窓を叩く音がしている。
 三回忌の日、母の墓前に向けた「ごめんね」の言葉がよみがえった。
 その後、一度見切りをつけようとしたものの、実は美空は航空会社におけるパイロットの採用試験を受けている。結果は適正検査、書類選考と進みながら、面接で身長を指摘され――身体検査で不合格。
 この写真が降機したあとに撮られたものであれば、胸に鈍い痛みを覚えることもなかったと思う。
 もちろん、乗務中の撮影ではないことは、見ればわかる。
 機体は着陸しており、機密にあたる計器類の写りこみもない。しかるべき配慮はされた上での写真だ。文句を言いたいのはその点ではない。

(純粋に空だけが写っていたら……)

 あるいは、外から機体を写したものなら美空は喜べただろう。
 美空に写真を送る理由は不明だが、返信しなければ朋也もこれきりにするに違いない。

(でも、よりによってこんな景色……見せつけないでよ)

 父がかつて繰り返し話してくれた、コクピットから見る――パイロットだけが見ることのできる絶景。
 美空がかつて憧れ、目指していた場所そのものだった。
 胸が、とっくに過ぎたはずの過去の痛みに疼く。
 美空は抱えた膝に頭をうずめた。

「連絡先なんて、教えるつもりじゃなかったのに……っ」

 朋也に非がないのは考えるまでもない。だからこれが(ひが)みに過ぎないことも、頭では理解している。
 普段は美空自身、パイロットを目指していた事実を忘れているほどでもある。業務でパイロットと関わっても、胸をかき乱されることもない。
 だから今になって僻んでしまう自分に、美空自身がいちばん驚いてもいた。

(挫折と劣等感をこんなにも意識させられるなんて)
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