大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
 だが、指摘されて初めて見えるものがある。朋也は上着のポケットに手を入れ、いつも持ち歩いているお守りを取り出した。
 色褪せた様子が目を惹くのか、これを持っていると由来を聞かれることが多い。そのたび、朋也は弟にもらったと当たり障りのない説明をしてきた。
 もちろん嘘ではなかったが、実のところこのお守りにこめられた意味はそれだけではなかった。

 元々は弟の夢が叶うよう願いをこめて、朋也が病床の弟に渡した。
 そして、弟が回復したあと「次は兄ちゃんが頑張る番」という言葉とともに、朋也の手元に戻ってきたのだ。
 以前クルーの前でこの話をしたところ、CAらに美談だと過度に持ちあげられて閉口したため、それからは口にしなくなったが……このお守りは弟が元気になった証であり、ただ弟にもらったという以上に大切なものだった。
 これを持って乗務することは、弟を飛行機に乗せることに等しい。
 そんな重たい思いが秘められたものだとは知らないはずだが、美空はわざわざ急いで届けてくれた。憮然としながらも、大事なものだろうからと。
 思えば、美空は怒っているのに怒る自分を責めるような顔をしていた。突き放した態度のすぐあとに、気遣いと申し訳なさのまじった表情を見せた。
 一見、真逆のように見えるそれらの反応もすべて、美空の本質が他者を受け止める優しさにあるとしたら。

「それほど大事な相手なら、諦めるしかありませんね」
「諦める?」
「そうです、引き下がるのを諦めるんです。閉鎖された滑走路がふたたび着陸可能になるまで、アプローチを続けるしかないんじゃないですか?」
「……ですよね。俺もそう思ったところです」
「無事の着陸を祈っていますよ。ご安全に」

 機長の冗談を最後まで聞くのももどかしく、朋也はオペセンへと駆けだした。
 美空はすでにひとの女らしい、ということももはやどうでもよかった。
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