客席にいない君へ
1-2 きっかけ
私がレオンの存在を知ったのは、日本に帰国してからだった。
私は父の転勤で海外に渡っていて、数年後、日本へ戻ることが決まった。私はもう日本でいう成人の歳となっていて、19歳という、実に曖昧な年齢で再び日本人という肩書きを背負うことになったのであった。
かくして、日本へ降り立ち…看板に商品広告、目につくもの全てというほどに、玲央…「RaiL(れいる)」はいた。
妹・マリ「何、お姉え」
ひょこっ、と効果音が付きそうなその仕草は、とてもわざとらしく、顔は歪むほどにニヤついていた。
私は澄ましていると、
マリ「かっこいい?ねえ、かっこいいよね?!日本人のレベル上がってなーい?!やだー!日本帰ってきて良かったー!!何これ何これ、これぞ我が城〜」
幼少期をほぼほぼ海外で過ごした7も下の妹に、何を言われようか。マリはRaiLのパッケージの商品をこれぞとカートへ入れようと試みていたけれど、我が財布を見て泣きべそをしていた。
マリ「お姉えは誰がタイプ?」
しかたがなく、一つだけ買った飴袋を手に、妹は足をぷらんぷらんとタクシー内で揺らしている。
ARIA「タイプね…」
マリ「うんうん!」
ARIA「1番かっこいいのは誰?」
マリ「えーっ、そりゃあこの人じゃない?!」
さっそくネットで調べたのか、この若き妹、12歳のマリは、真ん中に位置していた者を指差した。
ARIA「その人」
ふふーん、とマリは満足気に頷いた。そして、揺れていた足が、静かに止んでいくのを、姉、ARIAは気づかずに窓の外を見ていた。