もう一度 恋をするなら

きっかけは作るもの


「弓木くんってかっこいいよね」

 中学の頃、隣に引っ越してきた弓木くんは転校早々に人気者だった。まだ中学生なのにすでに大人の男の人と変わらないくらいに背が高くて、顔立ちが驚くほど整っていた。切れ長のちょっと鋭い目をしていたけれど、いつも笑顔だし常に表情が柔らかいから自然と目つきも優しく見えてくる。
 女子はまず弓木くんの容姿をもてはやしていたけれど、じきにそれは中身も伴った評価に変わった。明るくて優しくて、誰に対しても態度を変えない。

「燈子ちゃん、隣に住んでるんでしょ! いいなー」
「登下校一緒だなんて羨ましい!」

 友達によく羨ましがられたし、行きすぎて嫉妬を向けられたこともよくあった。仲のいい子たちはわかってくれたけど、隣のクラスのあまり親しくない女の子たちには敵視されて結構大変だったのだ。

「えー、だって隣だし。家出るタイミング重なったらわざわざ離れて歩くのも変でしょ?」

 そりゃもう必死で。なんにもないから! たまたまだから!とそれを主張した。

 女子のコミュニティはうっかり反感を買うとめちゃくちゃ怖いのだ。
 もちろん、私だってかっこいいと思っていたし、家が隣同士なのはラッキーだとこっそり喜んでいた。

 彼の家は、母親がいなくて父親とふたり暮らし。私の家は父が単身赴任。

 私の両親が不仲なのは別居以前からだ。父は学校の行事を見に来ることもなかったし、親子三人でどこかに出かけた思い出もない。別居してからも父はほとんど会いに来ず、いないも同然の人なので、ふたり暮らしという点では似た境遇だと、弓木くんに対して勝手に親近感を持っていた。
 もちろん、本当の父子家庭と単なる別居中の家庭とは実質違うところはたくさんあるだろうけど、子供にとって細かい事情よりも〝親がひとり〟という単純な事情が共感に繋がった。

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