もう一度 恋をするなら
 ◆◇◆

「ふあっ!」

 スマホのアラームの音で飛び起きて、ベッドの上で正座をするとばたばたと布団の上を叩いてスマホを探す。跳ね上げた上布団に埋もれていたスマホを見つけ出すと、画面をタップしてアラーム音を止めた。
 それから胸を押さえて、今もまだ夢の余韻でどきどきと忙しい心臓の音を確かめる。

「わー……なっがい夢見た……」

 昨日、弓木くんに会った影響だろう。中学生の私が彼と出会って、恋に落ちるまでの印象深い思い出を辿るような夢だった。
 あの後、私は彼にお礼を言いたくて塾の帰りに初めて自分から連絡した。それまでは、いくら呼んでいいと言われてもさすがに悪くて、かといって用もないのに連絡することもできないままだったのだ。
 もちろん、恋に落ちていきなり告白なんて勇気もなく、普通にお礼を言っただけだったけど。『何が?』となんでもない顔をされて、その顔にもまた惚れてしまった。

「うわぁあ……きゅんきゅんするぅぅ」

 スマホを手に胸を押さえながら、ベッドの上に突っ伏した。初恋の夢を見て悶絶する二十九歳彼氏無し、ちょっとヤバいなと自分でも思う。
 だけどあそこで終わってくれてよかった。あの後が長いし重いから。高校は別々になったけれど隣同士なので当然友達としての付き合いは続いて、三年私は告白する勇気を持てないまま過ごしたのだ。
 二度と会えなくなった《あの日》まで。

 当然夢にだって見たくない。告白できなくて良かったのか悪かったのか、今となってもわからないままだ。できなかったから、いつまでも心の奥に残っていて結局誰とも付き合えなかったのかもしれない。

「……起きよ」 

 蹲ったままスマホを見れば、結構長い間何度もスヌーズ機能で繰り返しアラームは鳴っていたようで、起きる予定の時間から三十分も過ぎている。私は気合を入れて起き上がり、ベッドを降りると大きく伸びをした。

 このマンションには、三年前に東央医療センターの職員寮を出てから住んでいる。看護大学時代は大学近くの学生寮にいた。高校を卒業してからは父とも母とも疎遠になった。母は時々連絡してくるけれど、私からすることはない。
 両親には、散々振り回されたと思っている。だから早くひとり立ちしたくて、充分なお給料をもらえる医療関係を目指したのだ。おかげさまで、ひとり生きていくには十分だしやりがいのある仕事につけた。正直、もう煩わされずに生きたかった。



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