もう一度 恋をするなら
「めっちゃかっこいい……簡単には誘いに応じないとこも、クールで素敵ですよねえ」

 どうやら、彼女も誘って撃沈したらしい。しかも、結構本気で惚れこんでいる様子で、複雑な気持ちになりながらも相槌を打った。

 ――クールで素敵。

 あの頃の弓木くんは、素敵ではあったけどクールという感じではなかった。以前と様子の違った彼の噂を聞くたびに、心配が先に立ってしまう。
 彼が変わったのが、大人になったというよりもあの日のことがきっかけだとしたら。会えなくなってから、彼がどういう状況になったのか私にはわからないままだったから。

 噂が立って、居づらくなった彼ら親子があのマンションから引っ越したということしか。
 再会を純粋に喜べないのは、それが最大の理由だった。会えてうれしい以上に、申し訳なさや心配や、嫌われているんじゃないかという不安の方が大きかった。
 だけど、このまま悶々と悩むのも正直しんどい。

「……声、かけてみようかな」
「は?」

 ぼんやりしていて知らず知らず呟いていたらしく、目の前から中川さんのひっくい声が聞こえて我に返った。

「は? 本気ですか? 今井さんが? なんのために?」
「え、あ、いや。違う違う。えーと、ほら。せっかく新しいMRさん来たんなら、看護師向けの勉強会とか開いてもらえないかなーって」

 とっさに思い付いた言い訳だったが、上手くいったようだ。中川さんが、目を輝かせて前のめりになった。

「いいじゃないですかそれ! ぜひお願いしてみましょうよ、私が声かけてみますね!」

 わあ。あからさまに。良い口実が見つかったみたいな顔をしている。

 しまったと思ったけれど、もしも実現したら業務的にとても助かる。やっぱり、看護師だって言われるままに薬を使うより、ちゃんと知識を持って仕事をしたいのだ。人の命を預かる仕事なのだから、きっと同じように考えている人は多いはずだ。

「待って、ちゃんと師長に話を通してからね!」
「えっ、どうしてですか」


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