もう一度 恋をするなら
先走りそうな彼女に慌てて言うと、途端に不満を露わにする。これは、任せておけば本当に弓木くんに声をかけるきっかけだけに使われそうだ。
「どうしてって、当然でしょう? 五階の責任者は師長なんだから」
それに、もし実現して好評だったら、医療センター全体に広めることができるかもしれない。そうなると、更に上の総看護師長まで話をもっていかなければいけない。
咄嗟に出た提案だったが、悪くないどころか場合によっては大きな事案に繋がりそうな気がしてきた。それなら、道筋は確保しておくべきだ。勝手に行動して上の反感を買うのはまずい。
「別に大丈夫じゃないですか? 看護師の為に看護師が動くんですから。それに形になってないのに報告されたって師長も困るかもしれないし」
「そうかもしれないけどそれでも! どっちにしろ勉強会開くならシフト調整だって必要になるし」
「もー、わかりました。ちゃんと計画出来たら報告しますって。あ、五〇一の大下さんCT検査あるんで移送行ってきます」
面倒くさそうに中川さんは席を立ち、さっさと病室へと向かってしまった。
◇◆◇
五月に入ってすぐ、新人歓迎会の日程が決まる。数人の異動は毎年あるので、恒例行事のようなものでどこの部署も交代で幹事を、決めている。
私は今年異動してきたので、歓迎される方だ。幹事は一度経験があるが、なかなか調整が大変なのでみんなできる限り当番にはあたりたくない。今年の五階の当番は、中川さんと柳川瀬さんのふたりで研修医の時任先生も協力してくれているらしい。柳川瀬さんはお子さんがいるので普段は不参加だったらしいが、当番なので今年はお祖母ちゃんに預けて参加するそうだ。
『中川さんがさー、帝正製薬のMRさん呼びましょうよってうるさくて面白いわー。速攻断られてたけど!』と笑っていた。
四階の新歓も断ってたと言ってたから、きっとそういうスタンスなのだ。でも、もう一度彼と話してみたいと思っているのは、私だけのようでそのことに地味にへこんでしまう。
そうして、新人歓迎会当日となった。私がゴールデンウィークの日勤三連勤ラストの日で、翌日休みの日に合わせてくれていた。つまり『飲め』ということなのか。
午後の業務に入って、私は入院患者リストのチェックをしている途中で、あるところの目が留まる。
「あれ?」
小田さんは四月中旬に糖尿病で教育入院してきた人だ。本当なら一週間程度で退院できるはずだったのだが、思うように進まないうちに血液検査の数値が悪化して一時医療入院に切り替わった。
入院初日に寝苦しさを訴えていたので、担当患者ではないけれど一度声かけをしていた。
『多分更年期だから仕方ないのよ』と笑っていたので、せっかく入院しているのだからと主治医に相談しましょうと伝えたのだ。
処方されている薬を見て、私は確認の為に主治医を探す。研修医の彼女はちょうど今朝は五階担当だった。
「先生、ちょっと良いですか? 小田さんのことで」
「何?」
「お薬処方してくださったんですね、ありがとうございます。ちょっと確認がしたくて」
この研修医はちょっと苦手だ。眉を顰めて面倒くさそうな表情を浮かべているが、頭を下げてナースステーションまで来てもらった。患者さんの処方、診察内容はスマホではなくナースステーションのパソコンの方が詳細に確認できる。
ナースステーション中央の大きな円テーブルに設置されているパソコンのひとつを、操作しながら尋ねた。
「小田さんのことなんですけど、ありがとうございます。伝達を聞いてくださって」
「ああ、診察したわよ。更年期障害かもしれないって患者が不安がってたそうだけど、話だったけど下肢静脈瘤が確認できたからそれ処方したんだけど」
「どうしてって、当然でしょう? 五階の責任者は師長なんだから」
それに、もし実現して好評だったら、医療センター全体に広めることができるかもしれない。そうなると、更に上の総看護師長まで話をもっていかなければいけない。
咄嗟に出た提案だったが、悪くないどころか場合によっては大きな事案に繋がりそうな気がしてきた。それなら、道筋は確保しておくべきだ。勝手に行動して上の反感を買うのはまずい。
「別に大丈夫じゃないですか? 看護師の為に看護師が動くんですから。それに形になってないのに報告されたって師長も困るかもしれないし」
「そうかもしれないけどそれでも! どっちにしろ勉強会開くならシフト調整だって必要になるし」
「もー、わかりました。ちゃんと計画出来たら報告しますって。あ、五〇一の大下さんCT検査あるんで移送行ってきます」
面倒くさそうに中川さんは席を立ち、さっさと病室へと向かってしまった。
◇◆◇
五月に入ってすぐ、新人歓迎会の日程が決まる。数人の異動は毎年あるので、恒例行事のようなものでどこの部署も交代で幹事を、決めている。
私は今年異動してきたので、歓迎される方だ。幹事は一度経験があるが、なかなか調整が大変なのでみんなできる限り当番にはあたりたくない。今年の五階の当番は、中川さんと柳川瀬さんのふたりで研修医の時任先生も協力してくれているらしい。柳川瀬さんはお子さんがいるので普段は不参加だったらしいが、当番なので今年はお祖母ちゃんに預けて参加するそうだ。
『中川さんがさー、帝正製薬のMRさん呼びましょうよってうるさくて面白いわー。速攻断られてたけど!』と笑っていた。
四階の新歓も断ってたと言ってたから、きっとそういうスタンスなのだ。でも、もう一度彼と話してみたいと思っているのは、私だけのようでそのことに地味にへこんでしまう。
そうして、新人歓迎会当日となった。私がゴールデンウィークの日勤三連勤ラストの日で、翌日休みの日に合わせてくれていた。つまり『飲め』ということなのか。
午後の業務に入って、私は入院患者リストのチェックをしている途中で、あるところの目が留まる。
「あれ?」
小田さんは四月中旬に糖尿病で教育入院してきた人だ。本当なら一週間程度で退院できるはずだったのだが、思うように進まないうちに血液検査の数値が悪化して一時医療入院に切り替わった。
入院初日に寝苦しさを訴えていたので、担当患者ではないけれど一度声かけをしていた。
『多分更年期だから仕方ないのよ』と笑っていたので、せっかく入院しているのだからと主治医に相談しましょうと伝えたのだ。
処方されている薬を見て、私は確認の為に主治医を探す。研修医の彼女はちょうど今朝は五階担当だった。
「先生、ちょっと良いですか? 小田さんのことで」
「何?」
「お薬処方してくださったんですね、ありがとうございます。ちょっと確認がしたくて」
この研修医はちょっと苦手だ。眉を顰めて面倒くさそうな表情を浮かべているが、頭を下げてナースステーションまで来てもらった。患者さんの処方、診察内容はスマホではなくナースステーションのパソコンの方が詳細に確認できる。
ナースステーション中央の大きな円テーブルに設置されているパソコンのひとつを、操作しながら尋ねた。
「小田さんのことなんですけど、ありがとうございます。伝達を聞いてくださって」
「ああ、診察したわよ。更年期障害かもしれないって患者が不安がってたそうだけど、話だったけど下肢静脈瘤が確認できたからそれ処方したんだけど」