もう一度 恋をするなら
「ありがとうございます。ですが、検査をした形跡がなかったので」
「糖尿病からくる下肢静脈瘤。症状も当てはまるし、だからこれで問題ないわ」

 確かに下肢静脈瘤だけならそれで問題ない。けど、万一の場合投薬治療だけでは済まない可能性があるのだ。私はそれを、以前に担当した患者さんで知っていた。

「この薬を使ってしまうと手術ができなくなります。念のためDダイマー検査はした方が」
「ちょっと。看護師がなんでそこまで口出すの?」
「ですが過去に」

 バンッ!
 言葉の途中で、テーブルを強く叩かれてびくっと身体が震えた。

「……診断を下すのは医師なんだけど?」
「……もちろんです」

 未だに人に激昂されると身体が硬直する。だけど、私ももう子供ではないし、大人で看護師だ。怯んでいる場合ではない。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。

「わかってるならいいのよ」
「もちろんです。その診断を下すために必要なデータは、十分に取るべきです」

 相手の気持ちを逆なでしないように言葉を選んだつもりだが「まだ言うの」と彼女は顔を顰める。

「忙しいのよ、いい加減にして」

 鬱陶し気にため息を吐き、くるりと私に背を向けた。行ってしまう、と慌てて後を追おうとした時だった。

「何かありましたか?」

 不意に割り込んできた声に驚いて振り向いた。

「……弓木、さん」

 うっかり『弓木くん』と言いかけて、直前で言い換える。声を聞いただけで誰かはすぐにわかっていた。
 まさか、こんな場面で彼が現れるとは予想もしていなくて。驚きのあまり、それ以上言葉が出なかった。


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