もう一度 恋をするなら
 その夜、予定時刻より少し遅れて新人歓迎会が行われた。参加者は看護師以外に看護助手、薬剤師や病棟クラークに内科医数人と大体三十人に満たないくらいだろうか。病棟を空にするわけにはいかないので、希望者と他数人はくじ引きで夜勤を引き受けてくれている。
 今年の新人は私を含めて三人だ。ひとことずつ挨拶をしてから乾杯をして、一斉に料理が運び込まれた。広いフロアに五人ずつ座れるテーブル席がいくつも並び、今は各々談笑している。
 私のテーブル席には、幹事の柳川瀬さんと時任先生がいてあとふたつ席が空いていた。

「俺、追加の飲み物手配してきますから、柳川瀬さん、座って飲んでていいですよ」
「あら、いいの? ありがとう」
「その代わり俺の料理取っといてくださいね」

 そう言って時任先生はすぐに席を立った。歓迎会の準備期間中、柳川瀬さんが時任先生はよく気が付く人で助かると言っていたけど本当にその通りのようだ。

「お疲れ様」

 隣に座る柳川瀬さんが私に向けてビールのグラスを掲げる。私も同じように軽くグラスを持ち上げた。

「柳川瀬さんこそお疲れ様です。お子さん大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、お祖母ちゃんが見てくれてるし、慣れっこだしね。もう小六だし。それより今日大変だったね」

 励ますようにポンと背中を叩かれて、私は苦笑する。何のことかと言われたら、もちろん小田さんの主治医と揉めたことだ。主治医をイラつかせてしまったせいで、随分声を荒げていたからあの時五階で働いていた人が結構周囲に集まってきていた。柳川瀬さんも、少し遅れて気づいたらしい。

「大変だったけどイケメンに助けてもらえてよかったじゃない」

 にやりと笑った顔を見れば、嫌味ではなく冗談だとすぐにわかる。なので私も冗談交じりで返した。

「役得だったけど後が怖いよ」
「弓木さん人気すごいよねぇ!」

 あの先生の物言いがキツいことは周知の事実で、誰に対してもあんな感じだ。だから比較的精神的なダメージは少ないのだが、患者さんに万一のことを考えると今日の一件に関しては本当にひやひやした。


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