もう一度 恋をするなら
それから少しして子供が熱を出したからと柳川瀬さんが急いで帰り、隣に時任先生が戻ってきた。
「すみません、席のこと」
「ああ、大丈夫大丈夫。笹井先生から直前にひとり増えてもいいかって連絡あったからさ、急遽欠席で空いてるのはわかってたし」
「そうだったんですね」
弓木くんはずっと笹井先生と話していて、時々中川さんが果敢に話しかけるも専門的な内容ばかりで会話に入れないでいた。多分、笹井先生もわざとやっている。別に中川さんがいやだからとかそういうのではなくて、あの人は若者をからかって遊ぶのだ。ある意味、社会的な洗礼みたいなもので、中川さんの狙いをわかっていてわざと邪魔している。
「すげえガッツだけど見事なスルーだな。聞きしに勝る対応……勉強になるわー」
時任先生が顔を寄せてきて、こっそりとそんなことを耳打ちする。思わず笑ってしまった。
「彼、先生の間でも話題に上るんですね」
「そりゃかわいい看護師たちが大騒ぎだったからなー。俺もそこそこモテるんだけどかなわないな」
「時任先生はもうちょっと、こう……きりっとしたらいいんじゃないですか?」
「ええ……やっぱ今井さんもああいうのがタイプなんだ……」
「えっ、いえ、そういうわけじゃ……」
本当にそんなつもりで言ったわけじゃなかった。だけど、心の奥を指摘されたような気がして、ぼっと頬に熱が集まる。みるみる赤くなっているのが自分でもわかるほどで、耳まで熱くなっていた。
「え、冗談なのに、まじ?」
真っ赤になった私に、時任先生が狼狽える。
「違います! そうじゃなくて、ちょっと酔いが回って。ワインが効いたのかも」
グラスワインを柳川瀬さんが注文した分まで飲んでいたので、確かに酔いも混じっている。
「ああ、そうか。水頼もうか? ジュースにする?」
「そうですね、ちょっとすっきりするのが飲みたいです」
時任先生がテーブルに置いてあるタブレットを手にして、私の方に身を寄せてくる。一緒に見ようということだろうが、さっきからやけに距離が近い気がして、私は身を固くした。
「あの……」
「んー? あ、グレープフルーツは? さっぱりしそうだけど」
ちょっと、本当に近い。どうしたものかと体を傾けた、その時だ。がたんと椅子の音がした。勢いよく立ち上がったのか、少し大きな音だったように感じた。そちらを見ると弓木くんがなぜか私を見ていたようで、目が合った。