もう一度 恋をするなら
「まあ、自由になってよかった。よく頑張ったよ、燈子えらいえらい」
「あはは……ありがとう」

 雪ちゃんがテーブル越しに手を伸ばして、私の頭をなでてくれた。冗談交じりの仕草だが優しくてそれがくすぐったい。

「……で! 親のことはもう吹っ切れてるぐらいの気持ちなのに、どうして今になってこの話をするに至ったのか……が、まさか話題のMR弓木さんだとはびっくりだわ」
「私も本当にびっくりしたよ。絶対もう二度と会えないと思ってたもん」

 一度だけ、地元に帰った。高校の間は父がお小遣いも最小限しか持たせてくれずバイトもできなくて、会いに行くお金がまずなかった。どうにかして少ないお小遣いをコツコツ貯めて、大学受験の後に門限を無視してようやく母と住んでいたマンションに行った。
 もう、弓木くん親子は引っ越した後だったけれど。あれだけ騒いだため、マンション内で不倫の噂が広がってしまい弓木くんたちも居づらくなってしまったのだそうだ。学校も変わったらしくて、彼がどこにいったのかまったくわからなくなっていた。
 その時に幼馴染の莉子の家にも行って、急に転校することになった事情を説明した。スマホを失くしたまま解約されて、音信普通になってしまったことも。それきりまだ自分のスマホを持っていなかったから、彼女からスマホの番号をメモ用紙でもらった。そのおかげで、今も付き合いが続いている。
 莉子も中学は弓木くんと一緒だったけれど、高校になってからは接点がなかったため弓木君の行方は何も知らなかった。

 ハンバーグをようやく食べきって、お皿を少し横に避ける。まだポテトサラダが残っているけど、食欲が段々と無くなって一旦箸を置いた。

「……嫌われてたら悲しい」

 心が落ち着かない理由は、結局そこだった。不倫の真偽のほどはわからない。けど、母は間違いなく本気で好きになっていたようだった。弓木くんのお父さんにとってはどうなのか、わからないけれど……私たち親子のせいで弓木君はマンションにいられなくなって、転校までするはめになったのだ。嫌われていたって仕方がないと思う。だけど、私は会えてうれしかったから、複雑なのだ。
 両手で顔を覆って椅子の背もたれに体を預けて天井を向く。

「うーん……初対面みたいな挨拶されたんだっけ?」
「そう。でもそれは私も同じだし」

< 39 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop