もう一度 恋をするなら

 どこか店に入ろうと、カフェか居酒屋で悩んだ結果、個室のある居酒屋になった。もうおなかはいっぱいなのだが、これには理由がある。

「……絶対、周囲にはあんまり聞かれたくない内容になるよね」
「それは、違いないな」

 私のつぶやきに弓木くんが苦笑いで同意して、カフェは却下になった。駅間近で見つかった居酒屋は、小さなスペースにテーブルセットがひとつあって入口をロールスクリーンで遮る形の半個室だった。まったくの密室よりは、そのくらいの方がいい。
 料理はおつまみ程度にして、居酒屋なのにお酒は頼まず私はグレープフルーツジュースで彼はウーロン茶だった。

「弓木さん、お酒飲めないって本当なんだ」

 歓迎会の時に聞いたことを思い出してそういうと、彼は首を振った。

「いや、飲めるよ。男同士の時ならまだいいけど、ああいう場じゃ飲めない体にしといた方が面倒がなくていいから。今日は飲むよりちゃんと話したいからだけど」
「飲めないフリってこと? 一体何が……」

 何が彼にそうさせるのか、思わず呟くと「まあ色々あって」と言葉を濁される。社会人になって何か嫌な思いをしたらしい。

「弓木さんも大変だね。うちでも大人気だし」

 そう言うと、彼はちょっと眉を潜めた。

「……それ。なんで弓木『さん』?」
「え? だって、もう『くん』っていうのもちょっと……」

 さすがにもう、彼は高校生じゃなく大人の男性で、改めて話すとなるとどうしても「さん」付けの方が不自然じゃないような気がしたのだが。


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