もう一度 恋をするなら
 家に帰ると、頬を腫らして蒼褪めた顔の父がいて、廊下には父と今井さんの母親との写真が散らばっていた。この写真が他の住人の目にも触れて、三か月もしない内にここから引っ越すことになるのだが。それまでが、大変だった。

『何もしてない! 本当にそんな関係じゃないんだ……!』

 子供に誤解されたくないとさすがの父も必死で弁解したが、俺もいつも通りに接することなどできなかった。無反応の俺を見て憔悴していた。

『知らねえよ。誤解されるような接し方してたのは確かじゃねえか……!』

 人は誰だって嘘をつく。いつも自分に都合の良いように、大人は子供に話すときに真実を少し捻じ曲げる。決定的なことしてなくても、後ろめたくなるような態度をとっていたんじゃないのか。

 子供の頃は大好きだった父の穏やかな笑みが、この日から胡散臭く見えて仕方がなくなった。

 ――明日! じ、時間、ある? 会えないかなと思って。

 顔を真っ赤にして、いつもよりちょっと目を吊り上げた緊張した顔が可愛いと思った。

 ――そう? ……うん、じゃあ、待ってる。

 練習試合なんてサボればよかったんだ。そうしたら少なくとも、彼女の気持ちを聞くことができた。

 自覚があったわけではなかったけれど、彼女の気持ちが透けて見えた時、翌日が楽しみで夜も眠れないほどだった。

 会えなくなって、はっきりと自覚した。
 守りたかったのは、ずっと傍にいたかったからなんだ。
 最後に見たのがあんな泣き出しそうな顔で、それがずっと脳裏に焼き付いている。

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