もう一度 恋をするなら
大学は学生オンリーのシェアハウスに入って、学費と生活費を稼ぐ為にバイトに明け暮れた。その頃には、俺は不愛想で女に冷たい面白みのない男というレッテルがついていた。
父にそっくりになってきた自分の顔が嫌いで、無責任に人に深入りするような人間になりたくなかった。彼女にはもう会えないだろうなと諦めていても、いつまでもずっと俺は引きずっていたということだ。
新卒で最初の製薬会社に就職しマーケティングの仕事をしていた時は地方の支社に出向していた。五年程でMRになり、八年経ってキャリアアップを狙って転職活動をして、帝生製薬に転職がかなった。
まさかそのおかげで東京勤務になり、彼女と再会できるとは想像もしていなかった。
最初の、東央医療センターでの再会は本当の偶然だ。すぐに彼女だとわかった。記憶の中の今井さんは、すっかり大人の女性になっていた。気が動転して定着している無表情のまま彼女の前に来ると、明らかに彼女も俺が誰だかわかっているのに初対面としての挨拶をした。その後のことは、ショックが大きすぎてあまり覚えていない。
俺の父親のせいで、あのにやけ親父のせいで彼女は転校まですることになったのだ。あの後の家庭環境はどうだったのだろうか。考えれば考えるほど、恨まれていてもおかしくないと思った。
俺はもう、彼女に関わらない方がいいのだ、きっと。大人の女性になって、看護師として立派に働いている。その姿が見られただけで、十分じゃないか。
そう自分に言い聞かせても、彼女の顔を見ればつい気になってしまう。気づかれないように、目で追いかけては逸らし、これでは自分の父親以上に気持ちの悪い存在になった気がする。
あんなにも争いごとを怖がっていた彼女が、懸命に研修医に意見しているところはほれぼれするほど格好が良かった。
内科部長の笹井先生に歓迎会に連行された時は、いつもなら何か理由をつけて逃げ出すところ、彼女に会えるかと思うとのこのことついていってしまい、後悔した。
時任研修医が彼女の隣に座ってから、やたらと距離が近かった。近すぎた。まさか、と思って見ていると隣に座っている看護師が
「あのふたり付き合ってるって噂聞いたけどほんとなのかもしれないですね」と囁いてきて撃沈した。
なぜ今まで考えなかったのか。高校生の頃も可愛かったけれど、大人になっておどおどしたところがなくなって、堂々とした態度で人に意見もできるようになった。
――恋人がいないわけがない。
隣の看護師がどれだけスルーしてもやたらとうるさく話しかけてくるのにも辟易して、逃げるようにその場を後にした。


