[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
京
全ては、もう終わったものだと思っていた。
先週から続く不運を、酒で洗い流そうとしても、心のモヤは消えなかった。
今夜は自宅ではなく、同じマンション内のバー『VIP』でテキーラを煽っていた。ここなら誰にも邪魔されない。
塩、ショット、ライム。
それを無心で繰り返す。まるで、何かに取り憑かれたかのように。
側から見れば、ただのタチの悪い酔っ払いだろう。だが、それで構わなかった。そう見えるなら、いっそその方が楽だ。理由を聞かれず、同情もされず、ただ距離を取られる。
今の俺には、それが一番ありがたい。
先週の、悠士の件。
それと――小宮真帆子。
二つの名前が、脳裏から離れない。
どちらも、守るべき存在のはずだった。
一方は、子どもの頃から同じ景色を見てきた男。もう一方は、守ると決めてしまった女。
そのどちらも、うまく守れていない気がして、思考の奥に重たいものが沈んだまま、動かない。
なぜ、何もかもがうまくいかない?
モヤのかかった頭でグラスに手を伸ばすと、別の手がそれを押さえた。
「何やってんだよ、兄ちゃん!」
眉間に皺を寄せた弟・雅。
その隣に、涼介が呆れ顔で立っていた。
「なんだ、おまえたち……一緒に飲むか?」
そう言いながらグラスを取ろうとした俺に、涼介が水を差し出す。
「京兄ちゃん、まずこっち飲め」
それでもショットを掴もうとした腕を、雅ががっちり掴んだ。
「ほら、兄ちゃん。立てるか? 帰るよ」
右腕を雅に、左腕を涼介に支えられ、ふらつきながらバーを出た。
部屋に戻ると、涼介が俺をソファに座らせ、
雅が冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すのが、目の端に映る。
ボトルの半分を一気に飲み干し、ため息をついた。
「俺たちに言えないことか、兄ちゃん?」
雅が穏やかに問う。涼介は黙って見ている。
平日にこんな姿を見せる俺じゃないと、ふたりとも分かっていた。
「悪いな。せっかく家族との時間、邪魔しちまって」
鈴音ちゃんや美愛ちゃんの顔を思い浮かべると、ふたりは笑って首を振る。
「気にすんな。けど、こんな兄ちゃん初めてだよ。話せば楽になるかも」
静かな言葉に、気持ちが揺れる。喉まで出かかったあの話が、また引っ込む。
二人が頼りにならないわけじゃない。ただ最年長の俺は、いつでも兄貴でいるべきなんだ。弱音を吐いた瞬間、『京兄ちゃん』であることが崩れてしまう気がして。
それは、弟たちのためというより、そうでなければ自分が保てないからだ。誰かに寄りかかった瞬間、今まで積み上げてきた立場も、覚悟も、全部嘘になる気がしていた。崩れたら、何も俺には残らないようで。
「ところで、悠士兄ちゃんの件は?」
空気を変えるように、雅が口を開く。
「……ああ、その件か」
触れたくない話だが、悠士も慶智の王子の一員だ。報告だけはしなければならない。
「しばらく向こうに残るそうだ。今のプロジェクトが終わるまで。戻る時期は未定だって」
言い終えると、雅と涼介が静かに視線を交わした。二人とも、悠士の決断に驚いているんだろう。
先週から続く不運を、酒で洗い流そうとしても、心のモヤは消えなかった。
今夜は自宅ではなく、同じマンション内のバー『VIP』でテキーラを煽っていた。ここなら誰にも邪魔されない。
塩、ショット、ライム。
それを無心で繰り返す。まるで、何かに取り憑かれたかのように。
側から見れば、ただのタチの悪い酔っ払いだろう。だが、それで構わなかった。そう見えるなら、いっそその方が楽だ。理由を聞かれず、同情もされず、ただ距離を取られる。
今の俺には、それが一番ありがたい。
先週の、悠士の件。
それと――小宮真帆子。
二つの名前が、脳裏から離れない。
どちらも、守るべき存在のはずだった。
一方は、子どもの頃から同じ景色を見てきた男。もう一方は、守ると決めてしまった女。
そのどちらも、うまく守れていない気がして、思考の奥に重たいものが沈んだまま、動かない。
なぜ、何もかもがうまくいかない?
モヤのかかった頭でグラスに手を伸ばすと、別の手がそれを押さえた。
「何やってんだよ、兄ちゃん!」
眉間に皺を寄せた弟・雅。
その隣に、涼介が呆れ顔で立っていた。
「なんだ、おまえたち……一緒に飲むか?」
そう言いながらグラスを取ろうとした俺に、涼介が水を差し出す。
「京兄ちゃん、まずこっち飲め」
それでもショットを掴もうとした腕を、雅ががっちり掴んだ。
「ほら、兄ちゃん。立てるか? 帰るよ」
右腕を雅に、左腕を涼介に支えられ、ふらつきながらバーを出た。
部屋に戻ると、涼介が俺をソファに座らせ、
雅が冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すのが、目の端に映る。
ボトルの半分を一気に飲み干し、ため息をついた。
「俺たちに言えないことか、兄ちゃん?」
雅が穏やかに問う。涼介は黙って見ている。
平日にこんな姿を見せる俺じゃないと、ふたりとも分かっていた。
「悪いな。せっかく家族との時間、邪魔しちまって」
鈴音ちゃんや美愛ちゃんの顔を思い浮かべると、ふたりは笑って首を振る。
「気にすんな。けど、こんな兄ちゃん初めてだよ。話せば楽になるかも」
静かな言葉に、気持ちが揺れる。喉まで出かかったあの話が、また引っ込む。
二人が頼りにならないわけじゃない。ただ最年長の俺は、いつでも兄貴でいるべきなんだ。弱音を吐いた瞬間、『京兄ちゃん』であることが崩れてしまう気がして。
それは、弟たちのためというより、そうでなければ自分が保てないからだ。誰かに寄りかかった瞬間、今まで積み上げてきた立場も、覚悟も、全部嘘になる気がしていた。崩れたら、何も俺には残らないようで。
「ところで、悠士兄ちゃんの件は?」
空気を変えるように、雅が口を開く。
「……ああ、その件か」
触れたくない話だが、悠士も慶智の王子の一員だ。報告だけはしなければならない。
「しばらく向こうに残るそうだ。今のプロジェクトが終わるまで。戻る時期は未定だって」
言い終えると、雅と涼介が静かに視線を交わした。二人とも、悠士の決断に驚いているんだろう。