白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】

白い結婚

 広い寝室の一角に置かれた豪奢な天蓋のついたベッドの端に、一人の美しい少女が座っていた。

 緩やかなウェーブを描く、青みがかった銀色の長い髪。極上のサファイアさながらの輝きを放つ、長い睫毛に縁取られた大きな瞳。透けてしまいそうなほどに白い肌。瑞々しいさくらんぼに似た小さな唇。
 表情にはわずかな緊張が窺えはするものの、儚げで愛らしい佇まいは雪の妖精を思わせた。華奢なその背には、人の目に見えざる透明な一対の羽が生えている――もしそう言われたら簡単に信じてしまいそうな雰囲気すらあった。

 彼女の名はプリムローズ・ディ・アラ・フィラグランテ。幼く見えるも年齢は今年で十九歳になる。フィラグランテ王国の第一王女にして数刻前、ここイルダリア王国王太子・アルバートの正妃となったばかりの身だ。結婚式を挙げた日の夜――つまるところプリムローズはこれから初夜を迎えようとしており、今はアルバートの訪れを待っているところだった。

「アルバート様は、まだいらっしゃらないのかしら」

 侍女たちの手で真珠のような白い肌はさらに丁寧に磨きあげられ、ほのかに甘い匂いのする香油をたっぷりと、それこそ肌だけではなく内側からも匂い立つのではないかというほど丹念に刷り込んでもらっている。やや塗りすぎではないだろうかと内心思ったほどの量は、イルダリアがフィラグランテより空気が乾燥している土地柄もあるようだ。それでいてあくまでも上品に匂い立つ香りはプリムローズのお気に召した。
 そこに纏うのは従姉のデイジーが結婚祝いにくれた下着……と言って良いのか。可愛らしく、それでいて煽情的な布だけだ。

(デイジーはどこで、こういったものを手に入れるのかしら)

 誰にも言えない相談に乗ってくれる従姉の存在はとても心強く、彼女と離れてイルダリアに一人嫁いで来た今はとても心細くもあった。

「でもこれからは一人でも頑張らないと」

< 1 / 36 >

この作品をシェア

pagetop