白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
フレデリックは驚きに目を丸くした。
一年限りの白い結婚というのはアルバートの独断だ。
昨夜、プリムローズ本人に話しただけで他には誰も知らない。考えを打ち明けたのはフレデリックで二人目だ。
「もし他に知られたら面倒なことになるのが目に見えているから、誰にも言わないで欲しい」
「面倒なことって……それはそうだろ。白い結婚で手はつけていません離縁してお帰ししますって姫様を隣国に差し出して、陛下たちは納得するのか?」
「納得してもらうしかない」
「どうやって」
「それはこれから考える」
今度はフレデリックが大きなため息を吐いた。
「何度か見た限りかなり可愛い姫君だと思うけど、帰す前提ってことは好きじゃないのか」
アルバートは答えなかった。
プリムローズがとても可愛いことなんて、もちろんとっくに知っている。
母の冷たい亡骸を前に、十一歳のアルバートも途方に暮れた。
甘えたい気持ちは物心がついた頃にはなくなっていたが、母はいちばんの理解者だった。
葬儀の間、もう本当に母はいないのだと自分を見失いかけて中庭に抜け出した時、何も言わずに隣でそっと寄り添う小さな少女が与えてくれた大きなぬくもりが、どれだけ心強かったか。
別れ際に「――また」と、精一杯の声と勇気を振り絞った時に見せてくれた笑顔が、どれだけ強く心に焼きついたか。
母の葬儀が終わった数日後、彼女は政略結婚の相手として引き合わされた。
恋も分からないうちから、プリムローズはアルバートとの結婚を決められてしまった。
王族である以上、政略の為の結婚も仕方ない。仕方ないが、簡単に割り切ることはできなかった。
(好きだから、彼女の為に帰したいんだ)
大切に守って、いつか本当に愛する男と幸せになって欲しい。
その相手が自分ではないことに、胸が張り裂けそうな寂しさを覚えるけれど。
でもアルバートとは所詮、政略結婚だ。
たったの一年だけでも彼女の夫として振る舞うことが許されるのなら、それでいい。
「――ちゃんと考えたうえでの行動だとは思うけど、無理はするなよ」
フレデリックは他にも何か言いたそうではあったが、それ以上を言うことはなく脇のテーブルからアルバートの机の上に書類の束をどさりと置いた。
「こちらが本日の午前中に確認していただきたい書類となります、王太子殿下」
「全ての処理が終わったら仮眠を取る」
「それはもちろん構いませんよ。午後にもまた山ほどの書類がこちらへと持ち込まれるでしょうし、殿下はご結婚なさったばかりの身ですからね。新婚一日目から倒れられては王太子妃殿下に申し訳が立ちません」
白い結婚を貫くと説明されたフレデリックはわざと人のいい笑みを浮かべる。本当は、そんな考えは今すぐ改めろと言いたいのだろう。
従兄兼親友の心配に気がつかないふりをして、椅子に腰を下ろしたアルバートは書類を一枚取って目を通した。
一年限りの白い結婚というのはアルバートの独断だ。
昨夜、プリムローズ本人に話しただけで他には誰も知らない。考えを打ち明けたのはフレデリックで二人目だ。
「もし他に知られたら面倒なことになるのが目に見えているから、誰にも言わないで欲しい」
「面倒なことって……それはそうだろ。白い結婚で手はつけていません離縁してお帰ししますって姫様を隣国に差し出して、陛下たちは納得するのか?」
「納得してもらうしかない」
「どうやって」
「それはこれから考える」
今度はフレデリックが大きなため息を吐いた。
「何度か見た限りかなり可愛い姫君だと思うけど、帰す前提ってことは好きじゃないのか」
アルバートは答えなかった。
プリムローズがとても可愛いことなんて、もちろんとっくに知っている。
母の冷たい亡骸を前に、十一歳のアルバートも途方に暮れた。
甘えたい気持ちは物心がついた頃にはなくなっていたが、母はいちばんの理解者だった。
葬儀の間、もう本当に母はいないのだと自分を見失いかけて中庭に抜け出した時、何も言わずに隣でそっと寄り添う小さな少女が与えてくれた大きなぬくもりが、どれだけ心強かったか。
別れ際に「――また」と、精一杯の声と勇気を振り絞った時に見せてくれた笑顔が、どれだけ強く心に焼きついたか。
母の葬儀が終わった数日後、彼女は政略結婚の相手として引き合わされた。
恋も分からないうちから、プリムローズはアルバートとの結婚を決められてしまった。
王族である以上、政略の為の結婚も仕方ない。仕方ないが、簡単に割り切ることはできなかった。
(好きだから、彼女の為に帰したいんだ)
大切に守って、いつか本当に愛する男と幸せになって欲しい。
その相手が自分ではないことに、胸が張り裂けそうな寂しさを覚えるけれど。
でもアルバートとは所詮、政略結婚だ。
たったの一年だけでも彼女の夫として振る舞うことが許されるのなら、それでいい。
「――ちゃんと考えたうえでの行動だとは思うけど、無理はするなよ」
フレデリックは他にも何か言いたそうではあったが、それ以上を言うことはなく脇のテーブルからアルバートの机の上に書類の束をどさりと置いた。
「こちらが本日の午前中に確認していただきたい書類となります、王太子殿下」
「全ての処理が終わったら仮眠を取る」
「それはもちろん構いませんよ。午後にもまた山ほどの書類がこちらへと持ち込まれるでしょうし、殿下はご結婚なさったばかりの身ですからね。新婚一日目から倒れられては王太子妃殿下に申し訳が立ちません」
白い結婚を貫くと説明されたフレデリックはわざと人のいい笑みを浮かべる。本当は、そんな考えは今すぐ改めろと言いたいのだろう。
従兄兼親友の心配に気がつかないふりをして、椅子に腰を下ろしたアルバートは書類を一枚取って目を通した。