白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
アルバートに会わないまま二週間ほどが過ぎ、王妃からお茶会への招待を受けたその帰りに事件が起こった。
「恐れ入ります、プリムローズ姫……でございますね?」
突然声をかけられ、プリムローズは足を止めた。
横から美しい令嬢――アルバートと一緒に中庭にいた令嬢だ――が、四人の侍女を従えて優雅に笑っている。
「いきなりのお声がけ、大変失礼致します。わたくしはボードレット侯爵家長女エリザベスにございます」
身分が低いエリザベスが声をかけて来たことに対し、イレーヌが不快そうな目を隠すことなく向けた。
けれどエリザベスはそんな視線など全く気にした様子もなく、優雅な仕草で口元を扇子で覆った。まるでプリムローズよりエリザベスの方が地位が高い。そんな態度だ。
「プリムローズ姫とは一度、ぜひお話をしたいと思っておりましたの。――アルバートのことで」
王太子のアルバートを敬称でもなく名前で呼んでいるということは、相当に親しいらしい。
だけどイレーヌは今にも撤回しろと言わんばかりの顔をする。正直な気持ちを言えばプリムローズも、決して面白くはなかった。
「すでにお話が耳に入っておられるかもしれませんが、アルバートとわたくしは子供の頃から結婚の約束をしておりますの。――ですから」
ひどく酷薄そうにエリザベスは目を細めた。
「一日も早くいなくなって下さらないかしら」
そうして彼女に従う侍女と共にクスクスと笑いはじめる。
何という侮辱的な言動だろうか。
プリムローズは怯むどころか逆に頭が冷えて行くのを感じた。
身分の高さが全てだとは思わない。
でも、相手との身分の差を弁えられないことはとても恥ずべきことだ。
アルバートの想い人から放たれた言葉だなんて思いたくない。
「それはお約束をなさった殿下に訴えるべきことではないでしょうか。フィラグランテ国第一王女であり、イルダリア国王太子妃でもあるわたくしに初対面のあなたが言うべきことではありません」
「姫様……!」
凛と言い放つプリムローズに、イレーヌはよくぞ言ったとばかりに歓喜の声をにじませる。一方でエリザベスたちは鼻白んだ。
まさか反撃があるなどと思ってもみなかったのだろう。一国の王女なのに、ずいぶんと甘く見られている。
「な、何よ! 元は敗戦国の王女風情が偉そうに!」
エリザベスがヒステリックな声をあげれば、ますますプリムローズは冷静になった。
自国の民を、祖先をばかにすることは決して許されない。
戦が長引きそうな様相に、両国が歩み寄って和平が結ばれたと教えられている。その証拠に和平が結ばれて以降、不当に占拠されている領地は一つもない。国王と王妃もプリムローズを捕虜同然に扱ったりせず、貴人として接してくれていた。
イルダリアでは自国が勝戦国だと語り継がれているような発言は、いくら一介の令嬢のものであろうと国交問題に発展しかねない。
「訂正して下さい。祖先たちは皆が勇敢に戦ってくれました。彼らの働きがあったからこそ今のわたくしがおります。決して風情などと、軽んじられる立場ではありません」
「まあ……。こんなに可愛げがない妻ではアルバートもわたくしに安らぎを見出して当然ね」
「……っ」
「恐れ入ります、プリムローズ姫……でございますね?」
突然声をかけられ、プリムローズは足を止めた。
横から美しい令嬢――アルバートと一緒に中庭にいた令嬢だ――が、四人の侍女を従えて優雅に笑っている。
「いきなりのお声がけ、大変失礼致します。わたくしはボードレット侯爵家長女エリザベスにございます」
身分が低いエリザベスが声をかけて来たことに対し、イレーヌが不快そうな目を隠すことなく向けた。
けれどエリザベスはそんな視線など全く気にした様子もなく、優雅な仕草で口元を扇子で覆った。まるでプリムローズよりエリザベスの方が地位が高い。そんな態度だ。
「プリムローズ姫とは一度、ぜひお話をしたいと思っておりましたの。――アルバートのことで」
王太子のアルバートを敬称でもなく名前で呼んでいるということは、相当に親しいらしい。
だけどイレーヌは今にも撤回しろと言わんばかりの顔をする。正直な気持ちを言えばプリムローズも、決して面白くはなかった。
「すでにお話が耳に入っておられるかもしれませんが、アルバートとわたくしは子供の頃から結婚の約束をしておりますの。――ですから」
ひどく酷薄そうにエリザベスは目を細めた。
「一日も早くいなくなって下さらないかしら」
そうして彼女に従う侍女と共にクスクスと笑いはじめる。
何という侮辱的な言動だろうか。
プリムローズは怯むどころか逆に頭が冷えて行くのを感じた。
身分の高さが全てだとは思わない。
でも、相手との身分の差を弁えられないことはとても恥ずべきことだ。
アルバートの想い人から放たれた言葉だなんて思いたくない。
「それはお約束をなさった殿下に訴えるべきことではないでしょうか。フィラグランテ国第一王女であり、イルダリア国王太子妃でもあるわたくしに初対面のあなたが言うべきことではありません」
「姫様……!」
凛と言い放つプリムローズに、イレーヌはよくぞ言ったとばかりに歓喜の声をにじませる。一方でエリザベスたちは鼻白んだ。
まさか反撃があるなどと思ってもみなかったのだろう。一国の王女なのに、ずいぶんと甘く見られている。
「な、何よ! 元は敗戦国の王女風情が偉そうに!」
エリザベスがヒステリックな声をあげれば、ますますプリムローズは冷静になった。
自国の民を、祖先をばかにすることは決して許されない。
戦が長引きそうな様相に、両国が歩み寄って和平が結ばれたと教えられている。その証拠に和平が結ばれて以降、不当に占拠されている領地は一つもない。国王と王妃もプリムローズを捕虜同然に扱ったりせず、貴人として接してくれていた。
イルダリアでは自国が勝戦国だと語り継がれているような発言は、いくら一介の令嬢のものであろうと国交問題に発展しかねない。
「訂正して下さい。祖先たちは皆が勇敢に戦ってくれました。彼らの働きがあったからこそ今のわたくしがおります。決して風情などと、軽んじられる立場ではありません」
「まあ……。こんなに可愛げがない妻ではアルバートもわたくしに安らぎを見出して当然ね」
「……っ」