白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
「姫、落ち着いて話し合いを」
「わたくしはずっと落ち着いています! でも、話し合いに応じて下さらないのはアルバート様の方ではありませんか」

 両肩を抱かれ、初めて素肌に触れたその手に胸が高鳴る。
 だけど優しく抱き寄せる為ではなく冷たく引き離すような動きに、プリムローズも意地になった。いやいやと首を振りながらさらに身体を押しつける。

 本来ならプリムローズが力で叶うはずもないけれど、今は何しろアルバートの体勢が悪い。徐々にプリムローズが押しはじめていた。
 アルバートがプリムローズから手を離し、自らを支えようとするけれどもう遅い。むしろ手を離したことが仇となって、プリムローズが押し倒すような格好になった。

「あ……」

 プリムローズは慌てて上半身を起こした。アルバートはただ、驚いたような目でプリムローズを見つめている。今日、初めて目が合った。
 はしたない下着に身を包み、夫とは言え殿方に跨ったはしたない体勢。今にも身体中の血液が沸騰してしまうのではないかというくらい、頬が熱を帯びた。
 下りなくては。
 意識がアルバートの顔から自分の身体に移った時、足のつけ根辺りに固いものの存在を感じた。

(何、かしら……?)

 考えて、すぐに思い至った。
 アルバートは王太子だ。護身用の短剣か何かを所持しているのかもしれない。着替えてはいないのだから、おそらくは持ったままやって来たのかもしれなかった。

 だけどここは夫婦の、しかも初めての夜を迎える為の寝室だ。彼の命を狙う者など誰もいない。せめて武器は外して来て欲しかった。
 それとも――白い結婚をしようなどと言い出すくらだ。プリムローズのことを信用してくれてはいないのか。
 十年前に婚約が決まって、お互いの誕生日にはプレゼントを贈り合ったり、年に何回かは夜会に招待し合って交流を重ねて来た。
 燃えるような恋の果ての恋愛結婚ではないけれど、穏やかな関係を築いてずっと生きて行けると思っていたのに。

 悲しくて悔しくて、気持ちがぐちゃぐちゃになった。
 瞳に涙が潤む。

「リ……姫」

 呼びかけられ、ぐっと涙を堪える。
 こんなもの(・・・・・)は今すぐ取り上げてしまわなくては。

「失礼します!」

 礼儀として一声断るべきだと判断して、自身の心を奮い立たせる為にも大きな声をあげた。
 ゆっくりと息を吸い込み、そして身体をずらすと"それ"を掴んだ。

< 8 / 36 >

この作品をシェア

pagetop