白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
「な、何を」

 アルバートの顔が真っ赤になった。
 先に声をかけられたとは言え、いきなりこんなことをされてはいくら温厚な彼でも怒りを覚えるのは当然だ。
 でも、プリムローズだって信用されていなかったことに傷つき、白い結婚だと告げられたことにとても怒っている。
 有無を言わせず握りしめたそれはトラウザーズ越しでも熱い。取り出す為にぐっと握ると、柄の部分だろうか、指先がわずかに引っかかった。
 衣服の中にしまい込んでいる以上、抜刀してしまうことのないように留め具がついているとは思う。それでも万が一のことを考えてほんの少し力を弱めた。

「手を、放して下さい」
「いやです、離しません。寝室に武器を持ち込むなんてあんまりです」
「武器? ――いや、これは」

 まだ顔を赤くしたままアルバートは上半身を起こす。プリムローズの手首を掴み、やんわりと離そうとした。
 彼が本気を出せば、プリムローズなんてたやすく振り払えるだろう。けれど彼はそうしなかった。この期に及んでも怪我をしないよう気を配ってくれている。とても、優しい人だ。
 でもそれなら、どうして武器なんて。
 プリムローズは早く武器を引っ張り出して取り上げることに夢中で、ベルトを締めるバックルに手をかけた。自分でも驚くほどの早さで緩め、トラウザーズの前をくつろげる。

「……っ!?」
「……っ!」

 二人同時に鋭く息を飲んだ。

 勢いよく飛び出すように中から現れたものは、プリムローズが想像していたような武器などではなかった。
 武器ではないのなら、何なのだろうか。
 初めて見た。

 想像していた短剣とは形がまるで違う。
 強いて言えば槍だろうか。
 でも、槍とも違う気がする。
 だけどどこかで見た覚えがあるような形だ。

(大きい……キノコ? でもどうして? 殿方は護身用にキノコを衣服の下にしまうこともあるの?)

 本には衣服の中にキノコをしまう習慣や嗜みなんて全く書かれてはいなかった。
 ということはアルバートが特殊ということなのだろうか?
 あるいは、プリムローズが読んだ本はフィラグランテで出版されたものだ。イルダリアではそうした文化があるのかもしれない。
 わけが分からなくてアルバートを見上げる。先程から説明して欲しいことばかりが続いて、プリムローズの中で優先順位がめまぐるしく変動していた。

 衝撃を受けたのはアルバートも同じだったようで、ずっと固まっていたのがようやく我に返ったらしい。突然姿を見せたキノコの説明もなく、謎にしたまま再びトラウザーズの中にしまい込もうと身動ぎする。
 その時、プリムローズの指先が直接、キノコに触れてしまう。
 硬く熱く、何だか……ぬるりと、していた。

「き……きゃああああああああああああ!」

 そこまでが限界で、絹を裂くような悲鳴をあげてプリムローズは意識を失ってしまった。

< 9 / 36 >

この作品をシェア

pagetop