これは、運命を信じてみた話。
さて、話を本筋に移そう。
私たち四人は、中学時代までは共に過ごせていたのだが、志希は総合科の高校、守は総合工業科の高校、晴翔と私は志希とは違うが、別の総合科を受験したため、高校で一旦バラバラになった。私と晴翔は一緒だったが、一学年で六組もあったために三年間一度も同じクラスになることは無かった。
思い返してみれば、中学時代毎日のように教室で顔を合わせていたのが懐かしい。奇跡的にクラスも一緒だった私たちは文字通りずっと一緒にいた。そんな私たちの一日は、朝、教室に入ったところからスタートする。
「おっはよー…ふぁーねむい…かだいあったっけ…?」
「あ、おはよ!志希大丈夫?顔にシーツのあと付いてるよ…」
「え、まじか、やっべー、ちょっと鏡みてくるわ!」
志希と入れ替わるように、今度は守が登校してきた。
「おはー!あれ、愛由?お前前髪のこのへん爆発してっぞ。ボンバー!」
ふざけたように笑う守に少しむっとしながら「別に気にしないし」といいつつも右手で前髪を確認すると、表面の毛だけ浮き上がってるのが確認できた。
「早くしないと千央が来ちまうぞ!」
茶化すように守は言った。またそれか。今度は少し苛立って、守を横目に私は、タオルを持って席を立ち、歩き出した。
千央くんというのは、このクラスにおける王子様的存在の男子の名前である。守は私が千央くんのことを好いていると勘違いしていたが、当然そんなわけはなく、また口が軽い守に、「私が好きなのは晴翔だから」と言う気もなかった。だから、軽くあしらうのがこの頃のやりとりだった。
お手洗いへ向かおうと教室のドアを開ける。少しのことに対しても苛立ちを覚える思春期のこの頃は、物への扱いが少し雑になりつつあるものだ。大きめの音が鳴ってしまうほどドアを強く開けると、そこには驚いた顔をした晴翔がいた。
「…平川、どーした?」
「あ、晴翔。おはよ、な、なんでもないよ!」
「そーか。あ、平川、頭おかしくなってるぞ。」
そう言いながら私の方に手を伸ばしてきた。私はその手を制する仕草をした。
「あ、あー…えっと…今からなおしゅ!」
前髪を抑え、慌てて晴翔の横を通り過ぎる。まさかそこに晴翔がいるなんて。心臓が一気にうるさくなった。噛んだことを思い出すと、恥ずかしくて逃げ出したくなる。私はお手洗いとは逆の廊下に走って、人気がない角でしゃがみこんだ。手汗を拭うようにタオルをギュッと握りしめた。
浮き上がった前髪を見られた。しかもドアを強く開けたこと、きっと、びっくりしたし変だと思っただろう。後悔という文字が浮かびつつも、朝っぱらから至近距離で晴翔の整った顔を拝めたことへの高揚感の方が止まらなかった。(あと、伸ばしてきた手を制したことを少し後悔した。)
恥ずかしさからなのか、緊張からなのか、耳と頬が熱くなるのが止まらない。こんなことが毎日あるわけではなかったが、思春期にこの衝撃が多々ある教室内で過ごすのは容易ではなかったことを記憶している。
こんな些細なことで過剰に反応しているくらいじゃあ先が思いやられるが、私の話はこれで終わらないのだ。