これは、運命を信じてみた話。


私たちが通う中学校の近くに、毎年イルミネーションを盛大に飾る大きなお家があった。そのお家は、昼間に見ても西洋の街並みに溶け込めるほど見事なお屋敷だった。去年の十二月の末頃、いつものように1人で帰宅をする時、せっかくなのでそのお家のイルミネーションを見てから帰ろうと思い立った私は、少しの遠回りをした。
十二月の夕方五時は夜ほどとは言えないが、街頭はつき始めるほどの暗さになる。例の家に着いた時にはほぼ夜と同じ暗さになっていたため、見事なイルミネーションが暗闇に映えており、その家の一角だけ周りより少し明るかった。

この家のイルミネーションは地元の人には有名で、持ち主も了承していたため、立ち止まってみていても問題はなかった。
虹色の汽車や、ひたすらに青い植え込み。そして真ん中には、大きな星をてっぺんに掲げた大きなクリスマスツリー。…いつかこんなイルミネーションを、好きな人と…出来れば晴翔と一緒に見たいと思いながらぼーっとしていた時、左肩をトントンと叩かれた。

「よ。なにしてんの、平川。」
「あ、は、晴翔…。やっほー。」

まさかまさかの登場に、ひとまず場を取り繕うほどの返事しかできない。途端に緊張して、全身に血が回り、それに合わせて目眩がした気がした。

「今日サッカー部、顧問が出張で無くなったんだ。」
「そ、…そーなんだ。私は…ほら、ここのおうちすごいって聞いたから…見にきたの。」

ありのままを話したら、急におでこにデコピンをしてきた。

「いたっ」
「バカ。もう暗くなるの早いんだから、1人でふらつくなよ。」

晴翔の方をみながら固まることしか出来なかった。イルミネーションの光に照らされた晴翔の顔はぼんやりとしか見ることが出来ない。しかし、小学生の頃と比べても明らかに顔つきが男らしく変化していたことが見て取れた。丸かった輪郭は男性を思わす角張った形に変わっていて、背もいつの間にか大きくなっている。頭一つ分以上の差はあった。

「おい、聞いてんの?」
「え、あぁ、ごめん…。」
「お前暗いのダメなくせに、1人でフラフラしてんじゃねーぞ。」

そんなこと教えたっけ?なんで知ってるの、という言葉は飲み込んだ。というより2人で話すのが久しぶりすぎてうまく話せなかった。

「そ、そそうだよね。もう帰るかな…。」
「まてって。送ってやるから。イルミまだ見るだろ、きたばっかりなんだから。」
「え、な、なんで知ってるの?」

今度は考えるまもなく言葉が出た。バツが悪そうな顔をした晴翔は、そっぽを向いた。

「たまたまだよ。土手の方回って走り込んでから帰ろうとしたら、お前が一人でいたから。」

…学生服のまま、走り込みするのか、晴翔は。いつもだったら茶化すことだって出来たのに、本当にいつの間にこんなにぎこちなくなってしまったのか。しかし、なんだかおかしかったので軽く笑いながら返事をした。

「そ、そうなんだね。」
「っ、そうだよ、ばか。」

またバカと言われたのにも関わらず、素直に嬉しかった。
そのあとはお互い黙ったままイルミネーションを見ていたが、時折晴翔がこちらを見ている気がして、あまり堪能できなかったことを記憶している。

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