暁に星の花を束ねて
そして──見つけた。

『アンチナリア・シード抑制試薬』

(アンチナリア……?)

聞き覚えのない名前だった。
植物分類にも、ナノ応用にも見当たらない。

そのファイルを開いた瞬間、サンプルの香りがふわりと漂い、彼女の心臓が跳ねた。

……この匂いだ……!

画面には、機密文書としての体裁で報告書が表示されていた。

Class-Aの極秘指定。

BEH内でも閲覧は限られた職員のみに制限されている。

参考写真を見て、葵はあっと声をあげた。

(これ、診療所時代の温室にあった花だ! お父さんが育ててた花……!)

そして思い出した。

ステラ・フローラは本当に葵しか咲かないのか?
実験をかねて父、善一が育てていた花。

そして結局、善一では咲かずに蕾のまま、種のような状態で終わった花。

ステラ・フローラの異種……

(どうしてあの花が、記録に)

葵は息を詰めた。
思考が静かに動き出す。

分類上はステラ・フローラでありながら、花が咲かないため繁殖も難しく、正式な種認定には至っていない。

心臓が早鐘を打つ。
ステラ・フローラの系統上に、もうひとつの影が存在していたのだ。

そして、葵は理解した。

アンチナリアとは、父が未完のまま臨床データの一環として、医療部門に提出した失われた治療花だと。
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