暁に星の花を束ねて
葵は温室の花々を思い出す。
(……花も、命も、彼も……全部、繋がってるんだ……)
その時。
一株のステラ・フローラが脳裏を過ぎる。
胸の奥で、何かがはっきりと音を立てた。
絶望ではなかった。
恐怖でもない。
それは小さな確信。
(あのステラ……!)
呼吸が速くなる。
温室の異色の花──
佐竹の血を吸い、異形に変じたステラ・フローラ。
(あのステラを解析すれば……進行を抑えられるかもしれない!!)
思考が、一気に回転を取り戻していく。
科学者としての葵が、悲嘆の底から這い上がるように。
ナノ毒の暴走を止める鍵。
アンチナリアとステラの境界線。
そして、彼を繋ぎとめるための第三の花。
「やる!!」
葵は小さく呟いた。
震えていた手が、いつの間にか端末をしっかりと握っている。
涙はまだ頬に残っていたが、その瞳には明確な光が戻っていた。
(お父さん、わたし絶対に見つける。佐竹さんを救う方法を)
その瞬間、ラボの照明が微かに明滅した。
遠くで、冷却装置のファンが静かに唸る。
──芽吹く種子は、再び動き出していた。