暁に星の花を束ねて
「事故として処理されましたが、報告は封鎖されました。真実を知る者は、皆口を閉ざした。誰かが守らなければ、この会社は同じ過ちを繰り返します」


楓の視線は佐竹へ。

その眼差しには、過去と現在を結ぶ鋭い線があった。

片岡一真が短くうなずく。


「調和部門の倫理監査報告でも、同様の指摘が上がっています。馬渡統括の資料によれば、抑制酵素の監査は未完。この状態で承認を進めるのは、危険だと考えます」


隼人の唇がわずかに動いた。
それは笑みのようにも見えたが、笑いではなかった。

彼の声は静かでありながら、どこか底冷えする響きを持っていた。


「理想論を語るのは簡単だ。だが、現実の経営は理想だけでは守れんのだよ、佐竹部長」


佐竹は視線を上げた。

その黒い瞳が隼人をまっすぐに射抜く。
短い沈黙の後、淡々とした声で返す。


「それでも。理想を失った組織に、未来はありません」


その一言で、会議室全体の温度が数度下がったようだった。

まるで硝子を爪で引っかいたような緊張。
誰も息をしない。
誰も、椅子を動かさない。


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