暁に星の花を束ねて
影の間
片岡が静かにタブレットを起動する。
暗い部屋に、白い光が広がった。
プロジェクターに映し出されたのは、たった三行の報告書。
【倫理監査速報】
社内データベースにGQT系列企業からの通信パケットを検出。
発信元:財務理事・藤崎、研究支援局。
ざわめきが広がる。
理事たちの顔色が変わった。
一人が声を上げ、もう一人が椅子を引く音が響く。
「藤崎理事、それはどういうことですか!?」
「ま、待て! 私は知らん!」
「証拠があるのか!?」
片岡は淡々と答えた。
「証拠は充分です。また、この件に関する内部リークを遮断するため、影班がすでに該当サーバを隔離済みです」
理事たちが一斉にどよめく。
隼人が深く眉をひそめ、額に手を当てた。
重苦しい沈黙。
その中で、再び佐竹の声が響く。
「結局のところ座る者が変わっても、椅子が汚れていれば同じことです。問題は、誰がその汚れを落とす覚悟を持つか、でしょう」
短い沈黙。
理事たちは顔を見合わせ、誰も言葉を発せなかった。
隼人は苦い息を吐く。
そのとき片岡はふと、報告書の冒頭を見つめ直した。
このデータは凛翔との交渉が決裂した後、朝倉楓から佐竹に密かに渡されたデータパッドの中に記録されていたものだ。
「……同じ過ちを、二度と誰にもさせないで」
楓の静かな声が耳の奥で蘇る。
その言葉には過去の喪失と、今なお燃える矜持が滲んでいた。
彼女は、この瞬間を予見していたのかもしれない。