暁に星の花を束ねて
封鎖通信
SHT本社・戦略統括本部 副制御室
警報は鳴っていない。
だが、空気が確実に揺らいでいた。
「星野葵研究員、応答なし。ラボ内端末からのアクセス記録、午後二時十四分を最後に途絶えています」
片岡の報告に佐竹の眉がわずかに動く。
理事会から戻ったばかりの彼の目には、すでに迷いの色はない。
黒手袋の指先が操作卓の光を走る。
「通信ログを遡れ。外部発信、もしくは異常アクセスは?」
「確認中です。……ありました、内部発信経路を経由していますが、差出元は不明。暗号化強度が異常に高い」
「時間は?」
「午後二時十七分」
その一瞬、佐竹の呼吸が止まった。
頭の中で理事会の静寂が遠く過ぎる。
あの時。
通信遮断中だった自分に、誰かが代わりに何かを送った。
「片岡、座標追跡を。宛先の端末は星野の個人ユニットだ。場所を割り出せ」
「了解」
指が走る。
瞬時に戦略部門の追跡班が起動。
監視サーバが幾つも重なり、都市圏の網を広げる。
通信ログ、移動経路、バッジ認証履歴。
すべてをAI解析に流し込む。
「出ました。最終位置は第三区郊外。SHT外縁……星野善一医師の旧診療所跡地です」
その名を聞いた瞬間、佐竹の瞳が鋭く光る。
過去と現在が、ひとつの点で重なった。
「馬渡統括に繋げ。調和部門に現地ルートを抑えさせろ」