暁に星の花を束ねて
「趣味の悪い連中が、星野葵さまを餌に騒ぎを起こそうとしています。『扇』の者たちは、それを封じるために周囲で動いております」

玉華は静かに息を整え、葵をまっすぐ見つめた。

「ですが、救出の任はわたくしが担っております。
葵さまをこの場所から連れ出す役目は、他の誰でもない、わたくしです」

「そんな……じゃあ、みんなは……?」

「大丈夫です。彼らはわたくしの誇りであり、信頼できる仲間です。周囲の脅威は彼らが抑えます。
あなたを助けるのはこの手です。ですから、ここは安心してお任せくださいませ」

葵は息を呑んだ。

玉華の背に灯る覚悟は、闇の中でひときわ鮮やかに輝いていた。

「……帰りたい……。わたしも佐竹さんに、また脱走したのかって叱られたいです……」

泣き笑いしながら、葵はそう云った。
その笑みは、涙と希望をともに抱いた、強さの証だった。

玉華はわずかに微笑み、頷いた。

「承知いたしました。では、始めましょう。 帰還のための反逆を」

闇の中、玉華の背後で黒布が翻った。
鋭い銀の閃光が一筋、闇を裂く。
それは、希望の切先。

影が花を救いに来た夜だった。

そして玉華は、ふと優しい声音を落とした。

「温室では、葵さまのステラ・フローラが泣いています。葵さまを、お待ちしておりますよ」

冷たい廃棄研究所に春の風のように落ちた。
葵の胸が強く、確かに震えた。

(……ステラ……待っててね……)


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