暁に星の花を束ねて

三分の死地、ただ一つの義



画面には拘束室へ向かう朧月玉華の姿。
暁烏は細い目をさらに細くし、口元を歪めた。

「おやぁ……? これはこれは。資材置き場に放っておいた試験体がお元気で」

声音は愉悦そのものだった。

「まさか佐竹蓮に拾われて、ここまで仕上がるとはねぇ。捨て犬でも、餌を与えれば懐く……典型例だ」

その嘲笑にも玉華の横顔は揺るがない。
しかしその瞳の奥の奥だけが、一瞬だけ微かに震えた。

「わたくしは、命を預ける主を自ら選びました」

暁烏は肩を震わせて笑った。

「選んだ? ああ、そうでしたねぇ。だからこそ、あなたがここに来ると思って……」

ひらりと指を振る。

「先に準備しておいたのですよ」

直後。
玉華の周囲で、手裏剣が金属片に変わるように地へ落ちた。

忍具
強化義肢
ナノブレード

全てが光を失い、ただの物質と化す。

「GQT開発。ナノ物質無効化フィールド。ほら、この通り『扇』の牙は何一つ使えない」

玉華は静かに影切を確かめた。
刃は形を保ちながら、まるで影だけを残したように実体を失っている。

「……」

その声には怒気も焦りもない。
むしろ、覚悟の温度だけが静かに広がっていた。

暁烏は楽しげに眉をひそめる。

「可哀想に。 守りたいものを守れないまま死ぬ運命なんですよ、あなたは」

玉華は一歩、踏み出した。
その一歩が何故か空気ごと静まる。

「三分で十分です」

暁烏の笑みが深くなる。

「ほう。 何を根拠に?」

玉華は迷いなく答えた。

「佐竹さまは必ず辿り着きます。あなたの計算の外側から」

暁烏の目が、愉悦に細くなる。

「ふむ。ますます楽しみだ」

玉華は近づきながら、ひと言だけ付け加えた。

「三分あれば、あなたを越えて葵さまの元へ行けます。 その根拠は勝算ではありません」

「ほお? では、何なんです?」

玉華は静かに目を伏せた。

「義と、誓いです」

< 153 / 195 >

この作品をシェア

pagetop