暁に星の花を束ねて
瞬間。
玉華の背に帯刀された『月哭(げっこく)』の鞘に、
刃なき影がふっと揺らいだ。

ナノ無効化下で、なぜかそれだけが反応する。
暁烏は初めて、わずかに息を呑む。

「なるほど。秘密兵器というわけですか」

玉華の声音は、氷より静かに澄んでいた。

「違います。 これは朧月家が千年守り続けた覚醒。 そして、忍としてのわたくしの覚悟です」

暁烏の指が警戒の色を帯び、警報スイッチへ向かう。

その刹那。
玉華は『月哭』を一振りした。

空気がわずかに震え無音の衝撃が走る。
監視卓のモニター群が、すべて同時に暗転した。

「あれ、見えなくなったぞ? 朧月め」

暁烏は嘲るように息を洩らす。

「まあいい。監視がなくとも構いませんよ。 我々も引き上げましょう。……何にせよ、この一帯はナノ毒の吹き溜まりで死にますから」

暁烏の足音が遠ざかる。

薄闇の中、玉華は無言で『月哭』を握り直した。

その手には震えひとつなく、ただ一つの覚悟だけが宿っていた。

「……葵さま。必ず」

そして影が彼女の体を包み込み、
次の瞬間にはすでに別の闇へ溶けていた。

三分。

死地の始まりだった。

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