暁に星の花を束ねて
薄暗い通路に、かすかな金属音が跳ねた。
それは風ではない。
命を賭して跳ぶ者たちの、わずかな摩擦音だ。
「……来たか」
扇の隊長が刀を半ば抜き、低く構える。
冷えた空気を裂いて、影が五ついや、六つ。
壁面を逆さに走りながら迫ってきた。
骸隠。
金属強化された四肢が壁に突き刺さり、まるで蜘蛛のような動きで直進してくる。
瞳は赤い光を帯び、感情というものが一切消えた、殺戮だけの目だった。
「全員、防御構え! 間もなく接敵する!」
黒鷹の号令と同時に扇の影たちが散る。
足音一つなく黒い反射が通路に花弁のように弾け、骸隠の一体が跳んだ。
金属の脚が床板を砕き、衝撃波が走る。 その速度は常人の3倍──いや、それ以上。
だが扇のひとり、薄羽(うすば)は一歩も退かず、 刃を斜めから滑らせるように突き出した。
「っ……!」
金属の甲冑と刃がぶつかり、火花が散った。
次の瞬間、骸隠の腕が逆方向へ折れ曲がり、 強引に薄羽の背後へ回り込もうとする。
「させるか!」
黒鷹が床を滑るように入り込み、骸隠の関節部に一撃。 鋭い破裂音が響き、金属の内部が削れた。
だが骸隠は痛みを感じない。
折れた腕をぶら下げたまま、体当たりのように黒鷹へ迫る。
「こいつら……相変わらず化け物め!」
別方向で扇が罠を展開していた。
掌から投げた黒い布が空中で網のように広がり、骸隠の脚を絡め取る。
「今!」
隊長号令で扇全体が一斉に駆けた。
刃の光が鉄の巨影を切り裂く。
骸隠の体表から火花が散り動作が鈍る。
数秒の沈黙。
しかしすぐに再起動するように赤い光が灯る。
「……しぶといな」
隊長が歯を食いしばる。