暁に星の花を束ねて
遠くで金属が割れるような低い振動が一瞬だけ伝わった。

しかしそれは壁の奥に吸い込まれ、次の瞬間には静寂が戻った。

葵にはその音が何なのか分からない。
ただ胸の奥で、不安の波だけが広がっていく。

扇と骸隠の激しい戦闘は、すぐ外で起きている。

だが玉華は、かすかな表情の揺れさえ見せず、
まるで何も起きていないかのように葵へ視線を向けた。

「葵さま。この装置の仕組みはご存知ですか?」

玉華の質問に葵は何か気づいたが、それには触れず頷いた。

「…星野この装置は、生物を安楽死させるもの。ロックが3重になっていて……。本来ならニつは簡単に外せるはず……」

思いだしながら葵は答えた。

玉華は頷き、だがその指先には一片の迷いもなく、熟練の忍ならではの確かな動きで、冷たい枷の構造を見極めていく。

金属がわずかに軋むたび、葵の胸が締めつけられた。
呼吸は浅い。

「……」

それでも玉華の落ち着いた手元を見ているうちに、
ほんの少しだけ意識の霧が晴れていくのを感じた。

「……玉華さん……」

その声にはまだ震えがあったが、
葵は勇気を振り絞るように続けた。

「玉華さんは……GQTにいたの?」

玉華の指が一瞬だけ止まる。
だが表情は変わらず、静かに葵の瞳を見返した。

「はい」

短い返事。
けれどその一語には、過去の重さと覚悟が滲んでいた。

< 156 / 203 >

この作品をシェア

pagetop