暁に星の花を束ねて

救うために



玉華が最後の鎖を断ち切った直後。

装置の核が狂ったように明滅し、
赤い警告が連続で点滅しはじめた。

 

【警告:生体因子同調率 98%
暴走閾値 到達まで 42秒】



葵の目が苦しげに細められ、胸が上下する。
制御ラインが身体に食い込み、震えていた。

玉華が歯を食いしばる。

「葵さま……!!」

だが、そのとき。

「星野葵!!」

佐竹が走り寄る。
左右には扇の二人。

冷たい空気を押しのけるように、迷いのない足取りで。

「佐竹さま!!」
「急ぐぞ玉華。次だ」

彼は黒手袋の上から、
小型の同期装置を手首に固定しはじめた。

金属がカチ、カチと締まる音だけが響く。

「佐竹……さん……?」

葵の声は震えていた。

「おれが星野とデバイスを入れ代わる。玉華、その瞬間、装置を破壊しろ」

「……!!」

玉華が刀を握りしめる手を震わせた。

「し、しかしそれでは佐竹さまが……!! その装置は、ナノ毒の拡散ロックが……っ!」

「こうするしかない。だが、全員が死なずに済むには、おまえにかかっている」

短く、しかし確信のある声。

佐竹は淡々と同期装置の最終ロックを締める。
体内へ流れるナノ電流が、黒髪の根元を一瞬だけ照らした。

佐竹は返さない。
返す必要もなかった。
一瞬だけ見えた横顔が、そのすべてを語っていた。

(そうか……この方は、最初から……)

玉華は唇を噛んだ。
涙ではない。
忍の覚悟の震えだった。

「……了解、いたしました」

佐竹は葵のすぐそばに膝をつく。
その瞳は、死地に向かう者の表情ではなかった。
ただひとりを救うために選んだ、揺るぎない決意。

葵は首を振りながら、縋るように云う。

「だめ……そんなの……代わりなんて……っ!!」

「代わるのは一瞬だ」

佐竹はそっと彼女の頬に触れる。

「おまえを死なせはしない。絶対に」

装置が警告を叫ぶ。 





【因子暴走まで──30秒
因子置換 準備】




佐竹は深く息を吸い──
玉華へ鋭く指示を飛ばした。

「行くぞ。カウントダウン……」

玉華の喉が上下する。
刀を構える腕は、これ以上なく静かだった。

(この一撃で、皆を救う。佐竹さまを信じる──)

佐竹の口が静かに開く。

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