暁に星の花を束ねて
「SHTにしても、GQTにしても。奴らは娘を研究素材としか見ない。そんな未来を、かわいい娘を、おれは渡したくないんだよ」
言葉は静かだった。
その内側には父親としての絶対的な拒絶があった。
「おまえたちが潰し合うのは勝手だ。だが、民間を巻き込むな」
その棘は怒りではなく願いだった。
佐竹は長い沈黙の末に、ようやく小さく頷いた。
「……今までのおれは死にました」
彼は立ち上がった。
「企業に忠誠を誓い使命を全うする。そのおれは、もういません」
足元はふらついていたが、背筋は折れなかった。
「おれの忠誠は名誉や上位者のためではなく。おれを救ってくれた、父娘のためだけに……」
男は誰かに命を拾われた者として、背を向けて歩き出した。
名前も身分も語らないまま。
善一もまた、何も訊ねることはなかった。
「お兄さん」
小さな声が温室に残る。
その呟きに佐竹は一度だけ振り返った。
少女を見つめ、目を細める。
「……ありがとう」
その瞳に微かにやわらぎが差し、それだけで葵の胸はどくんと跳ねた。
その動悸はしばらく治まらなかった。
なぜかはわからない。
あの瞳に触れた瞬間、何かが心に刻まれた気がした。
そして。
彼が立ち去ったあと温室で一つの出来事が起きた。
ステラ・フローラが静かに咲いたのである。
まるでその命の再起を見届けるように。
葵はそっとその花に手を添えた。
目を閉じ祈る。
どこかで元気で生きていてくれたら……。
その願いは神にも企業にも届かない。
が、確かに一人の命を救った手がここにあった。
十二歳の少女の手にはまだ小さな震えが残っていた。
奇跡と呼ぶには儚く、しかし未来と呼ぶには十分な震えだった。