暁に星の花を束ねて
「……っ、佐竹さん……?」

掠れた声で呼んだ。

閉ざされたままだったまぶたが、ゆっくりと、重たそうに揺れる。

光を求めるように、わずかな隙間が開いた。

焦点の合わない黒い瞳が、ぼんやりと、こちらへ向いた。

「……あ……」

声にならない息が漏れる。

佐竹の喉がひくりと震え、乾いた空気を吸い込む。

葵の胸がきつく跳ねた。


「佐竹さん……! 聞こえますか……!?」


手を握りしめる。
その温度が、かすかに返ってくる。

佐竹の呼吸が、浅く揺れながら言葉を探した。


「……星野、葵……」

「……!!」


涙で視界がにじむ。


「佐竹さん……っ!! 五日も眠っていたんですよ!? もう、目を開けてくれないんじゃないかって、わたし…っ!!」


佐竹は未だ意識の底を彷徨いながら、微かに眉を寄せた。


「……五、日……」


喉の奥で、かすかな呼吸が掠れた。

その一言で、葵の喉が詰まる。
息が震え、涙が溢れそうになる。


「……また、おまえに助けられたな……」


葵の胸の奥が震える。
昏睡の闇から最初に持ち帰ったのが、その言葉だった。

そして──
わずかに開いた瞳の焦点が、ゆっくりと葵へ合った瞬間。

彼は、確かに戻ってきた。


「……ありがとう」


短く、しかし誤魔化しようのない声音で。
それは十年前のあの青年の面影と声が、ぴたりと重なる。

その途端、葵の胸の奥に堰き止めていたものが、熱を帯びてせり上がる。

彼女は、耐えきれず彼の胸にしがみついた。


「佐竹さん……!!」


葵は佐竹の胸に額を寄せたまま、震える肩を小さく上下させている。
佐竹はその背に手を添え、静かに彼女の呼吸を数えた。

言葉の余韻だけが残り、病室にはしばし柔らかな沈黙が落ちた。

緊張も、恐怖も、怒りも。
すべてが少しずつ溶けていく。

と──

「今回は……本当に危なかったな」


冗談のような本音のような。
ぽつりと佐竹が呟く。
そのひと言が、葵の堪えていた怒りに火をつけた。


< 213 / 249 >

この作品をシェア

pagetop