暁に星の花を束ねて
暁に、星の花を束ねて
会議後、佐竹はひとり、温室へ向かっていた。
ガラス張りの回廊の外はまだ闇だ。
しかし先ほどまでの重い空気をまだ引きずっている。
温室の扉を開き、中へと進む。
会議を見守りたいと、温室の夜当番を申し出た葵がいるはずだ。
「あ」
声がした。
振り向くより先に、
佐竹はその気配に気づいていた。
葵だった。
佐竹の姿を見つけた瞬間、ぱっと表情がほどける。
花が咲く、という言葉はきっとこういう時のためにある。
その笑顔を見ただけで、佐竹の表情が目に見えて緩んだ。
肩の力が抜ける。
視線の硬さが消える。
「おつかれさまです! 佐竹CEO!!」
弾む声。
小走りに駆け寄り、見上げてくる。
ほんの数分前まで、
世界最大級の企業を背負っていた男は――
その瞬間、ただ一人の前でだけ、
帰ってきた。
「……おつかれ。おまえも」
低く云って、口元だけで笑う。
葵は気づかない。
その一言に、どれほどの安堵が混じっているかを。
佐竹は、そっと息を吐いた。
99%の脳が静まり、
1%の心臓が、確かに動き出す。
この温室だけが、彼にとっての無条件の安全地帯だった。