暁に星の花を束ねて
廊下は静かだった。
早朝の医療区画は人影も少なく、白い照明だけが床を均一に照らしている。
その中を、ひとり分の気配が滑るように進んでいた。
朧月玉華。
足音はない。
視線は前だけを向いている。
その進路を横切るように、二つの影が現れる。
会議帰りの朝倉楓と、八重樫澪。
八重樫の視線が、玉華の目に留まった。
「視力、戻ったそうね」
玉華は足を止め、短く頷く。
「ええ」
朝倉が、口元だけで笑う。
「守る側が、また見えるようになった」
八重樫は淡々と云う。
「忠誠の方向は?」
「一つです」
玉華は即答した。
「佐竹さまへ。そして、その方が守る光へ」
八重樫は一拍だけ黙り、視線を外す。
「……なら、いい」
朝倉が踵を返す。
「行きましょう。余計なことを云うと、焼ける」
玉華は何も返さず、再び歩き出した。
廊下の端。
ルミナリウム・ガーデンを見下ろせる角で、朝倉と八重樫が足を止めた。
ガーデンの中央で、佐竹蓮は星野葵を抱きしめていた。
その腕の置き方も距離も、戦略ではなく本音だった。
朝倉が息だけで笑う。
「脳で生きる男が、心臓を使ってる顔」
「星野さん限定ね」
八重樫は淡々と云う。
「CEOとしては問題。
男としては、満点」
二人は同時に視線を外した。
「噂になるわ」
「ええ。公式発表みたいなもの」
朝倉が、歩き出しながらぽつりと付け足す。
「溺れてる」
八重樫は、短く返した。
「世界よりも先に、ひとりに」
しばらくして、二人は温室へ続く回廊をゆっくりと歩いた。
早朝の医療区画は人影も少なく、白い照明だけが床を均一に照らしている。
その中を、ひとり分の気配が滑るように進んでいた。
朧月玉華。
足音はない。
視線は前だけを向いている。
その進路を横切るように、二つの影が現れる。
会議帰りの朝倉楓と、八重樫澪。
八重樫の視線が、玉華の目に留まった。
「視力、戻ったそうね」
玉華は足を止め、短く頷く。
「ええ」
朝倉が、口元だけで笑う。
「守る側が、また見えるようになった」
八重樫は淡々と云う。
「忠誠の方向は?」
「一つです」
玉華は即答した。
「佐竹さまへ。そして、その方が守る光へ」
八重樫は一拍だけ黙り、視線を外す。
「……なら、いい」
朝倉が踵を返す。
「行きましょう。余計なことを云うと、焼ける」
玉華は何も返さず、再び歩き出した。
廊下の端。
ルミナリウム・ガーデンを見下ろせる角で、朝倉と八重樫が足を止めた。
ガーデンの中央で、佐竹蓮は星野葵を抱きしめていた。
その腕の置き方も距離も、戦略ではなく本音だった。
朝倉が息だけで笑う。
「脳で生きる男が、心臓を使ってる顔」
「星野さん限定ね」
八重樫は淡々と云う。
「CEOとしては問題。
男としては、満点」
二人は同時に視線を外した。
「噂になるわ」
「ええ。公式発表みたいなもの」
朝倉が、歩き出しながらぽつりと付け足す。
「溺れてる」
八重樫は、短く返した。
「世界よりも先に、ひとりに」
しばらくして、二人は温室へ続く回廊をゆっくりと歩いた。