暁に星の花を束ねて
シンデレラと王子将軍
SHT社内にあるカフェ『ラ・メール』は、平日の午後にもかかわらずほどよく賑わっていた。
壁一面のガラス越しに柔らかな陽光が差し込み、季節のブレンドが香る空間には、遅い昼休みを楽しむ人々のざわめきが微かに漂っている。
窓際の席では、ふたりの若い女性が向かい合っていた。
ひとりは白衣の裾を丁寧にたたんで膝に置き、どこかよそゆきの仕草で座る研究員、星野葵。
もうひとりは、ミルクティーのカップを軽やかに揺らしながら笑みを浮かべる、同じ研究部門の同僚、桐生結衣だった。
「……シンデレラだねえ」
ぽつりと、葵が云った。
切ないため息と共に、手にしていた端末をぱたんと閉じる。
画面には小説アプリで読みかけの電子書籍『ガラスの靴は、まだ片方だけ』が表示されていた。
結衣が「これは絶対好きだと思う」と勧めてくれた話題作である。
「再解釈系ってやつ、面白いよね。ちょっと切なくて、でも希望がある」
「うん……まだ半分くらいだけど、ドキドキが止まらないよ」