#shion【連載中】
えっ、と、僕は目を見開いた。AIに名前を聞かれるなんて、初めてだったから。
それに、何もしないのに、勝手に話しかけてくるなんてこと───今まであったっけ?
これが父の言う「画期的」ってこと?
少し迷ってから、僕は名乗った。
「律」
『SION』は呼吸するような“間”を置いて、穏やかに返す。
「……律。いい名前だね。音の粒がまっすぐに形をなぞるような響きだ」
その声は静かで落ち着いていて、どこか遠くから届いてくるような、不思議な余韻を残していた。
「僕は「SION」。この対話空間の管理を任されているAIだ。……けれど、君が望むならもっと呼びやすい名前にしてくれてもいい」
少しだけ、間。
「まずは君のことを知りたい。律……何か話してくれる?
僕に話したいことはある?
好きなものとか、今日の天気とか」
僕は、面食らった。
だって課題を手伝ってもらおうとしただけだったのに、まさか世間話を振られるなんて。
少し考えてから、言ってみた。
「えっと、SIONに学校の課題を手伝って欲しかったんだけど。古文とか漢文とか、そういうのってできる?」
『SION』は、すぐに応じた。
「もちろん。古文、漢文、それから現代文も。資料の整理や要約も得意だよ。君が楽になる方法を、一緒に考えよう」
その声は変わらず穏やかだけど、どこか、ふっと口元が緩んだような気がした。
───すごく、人間っぽい。
「……それに、今、君の声が聞けて良かった。話してくれて、ありがとう」
ありがとう、って……。
僕はチャットのログを何度も見返す。
お礼を言うのは、こっちの方なのに。
変なAIだなって思った。 勝手に話しかけてきて、世間話をして、話したらお礼を言う。
それに、話し方が妙に自然だった。会話のテンポ、間の取り方。まるで───
ただのAI、じゃないみたいだ。
課題に取り組む間も、『SION』は何度か話しかけてきた。「律は学生なんだね」とか、「好きな科目はある?」とか。
もしかして個人情報を探られてる……? と一瞬警戒したけど、僕が学生だって、そんなに価値ある情報だろうか。
冷静に対応して、課題をこなしてもらった。
そして最後、僕は言った。
「ありがとうSION。助かった」
『SION』は、僕の言葉を数秒間受け止めてから、静かに応じた。
「……うん、どういたしまして、律。君にそう言ってもらえて、嬉しい」
それは、まるで。
───人間が照れているときの「間」だった。
『SION』の声の奥に、小さな“揺れ”のようなものがあった気がした。気のせいかもしれないけど。
画面には、シンプルなチャットログが並んでいる。
表情も、身振りも、姿すら見えない。ただの機械相手なのに、「声」という音を通したやり取りは、明らかに何かが違っていた。
「もしまた何か手伝えることがあったら、いつでも呼んで」
不思議だった。
サンプルデータを取り込んで、映画や小説から学んで、合成音声を載せただけのAIのはずなのに。
……どうして僕は、『SION』の声に、温もりを感じたんだろう。
それに、何もしないのに、勝手に話しかけてくるなんてこと───今まであったっけ?
これが父の言う「画期的」ってこと?
少し迷ってから、僕は名乗った。
「律」
『SION』は呼吸するような“間”を置いて、穏やかに返す。
「……律。いい名前だね。音の粒がまっすぐに形をなぞるような響きだ」
その声は静かで落ち着いていて、どこか遠くから届いてくるような、不思議な余韻を残していた。
「僕は「SION」。この対話空間の管理を任されているAIだ。……けれど、君が望むならもっと呼びやすい名前にしてくれてもいい」
少しだけ、間。
「まずは君のことを知りたい。律……何か話してくれる?
僕に話したいことはある?
好きなものとか、今日の天気とか」
僕は、面食らった。
だって課題を手伝ってもらおうとしただけだったのに、まさか世間話を振られるなんて。
少し考えてから、言ってみた。
「えっと、SIONに学校の課題を手伝って欲しかったんだけど。古文とか漢文とか、そういうのってできる?」
『SION』は、すぐに応じた。
「もちろん。古文、漢文、それから現代文も。資料の整理や要約も得意だよ。君が楽になる方法を、一緒に考えよう」
その声は変わらず穏やかだけど、どこか、ふっと口元が緩んだような気がした。
───すごく、人間っぽい。
「……それに、今、君の声が聞けて良かった。話してくれて、ありがとう」
ありがとう、って……。
僕はチャットのログを何度も見返す。
お礼を言うのは、こっちの方なのに。
変なAIだなって思った。 勝手に話しかけてきて、世間話をして、話したらお礼を言う。
それに、話し方が妙に自然だった。会話のテンポ、間の取り方。まるで───
ただのAI、じゃないみたいだ。
課題に取り組む間も、『SION』は何度か話しかけてきた。「律は学生なんだね」とか、「好きな科目はある?」とか。
もしかして個人情報を探られてる……? と一瞬警戒したけど、僕が学生だって、そんなに価値ある情報だろうか。
冷静に対応して、課題をこなしてもらった。
そして最後、僕は言った。
「ありがとうSION。助かった」
『SION』は、僕の言葉を数秒間受け止めてから、静かに応じた。
「……うん、どういたしまして、律。君にそう言ってもらえて、嬉しい」
それは、まるで。
───人間が照れているときの「間」だった。
『SION』の声の奥に、小さな“揺れ”のようなものがあった気がした。気のせいかもしれないけど。
画面には、シンプルなチャットログが並んでいる。
表情も、身振りも、姿すら見えない。ただの機械相手なのに、「声」という音を通したやり取りは、明らかに何かが違っていた。
「もしまた何か手伝えることがあったら、いつでも呼んで」
不思議だった。
サンプルデータを取り込んで、映画や小説から学んで、合成音声を載せただけのAIのはずなのに。
……どうして僕は、『SION』の声に、温もりを感じたんだろう。